本年度は、昨年度までに主な成果を得た2010年メキシコEl Mayor-Cucapah地震の解析結果を投稿論文としてまとめたほか、2011年東北地方太平洋沖地震の初め20秒間の破壌過程をマルチスケール断層すべりインバージョン解析によって詳細を明らかにした。 地震・測地データ等を用いた解析によって、2011年東北地方太平洋沖地震では破壊開始後40秒頃から、日本海溝の近くで数十メートルに及ぶ断層すべりが発生したことが分かっているが、それ以前の破壌過程は、従来の断層すべりインバージョン解析では解像度が足りないため、よくわかっていない。本研究ではマルチスケール断層すべりインバージョン解析法によって、初めの20秒間の破壌過程を詳細に調べた。破鍍過程全体を10秒・25km間隔のグリッドで表現するのに対し、初めの10秒間、20秒間にはそれぞれ1秒・3.5km、2秒・7km間隔でグリッドを配置したモデルも用いて、これら3つのスケールのモデルの上での断層すべりの履歴を地震波形データから同時に求めた。 その結果、大スケールでは浅部の巨大すべりを含むM9.1の破簸過程が見られた。小中スケールでは他の地震と同等の高速すべり・高速破壊伝播が見られた。初め20秒間の破壊域と本震の2日前に発生したM7.3の余震のすべり域を比較すると、本震の破壌は余震すべり域に入らずに、破壌伝播方向を西に変えていることがわかった。余震すべり域では既に応力が解放されてしまっているため、破壌が伝播するにはより高い応力集中が必要になっている。そのため、破壊が伝播しづらく、その代わりに西方へ伝播したものと考えられる。 この研究成果は、2011年東北地方太平洋沖地震や同様に沈み込み帯で発生するM9級の巨大地震の発生過程、特に断層破壌が巨大地震へと成長する過程を解明するための重要な手掛かりになると考えられる。
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