研究概要 |
本年度は研究テーマについてこれまでの成果を学会報告や論文発表で報告しつつ、これからの研究のための勉強と人脈作りに取り組んだ。 5月の関西社会学会では、ルーマン社会システム理論における脱パラドクス化のメカニズムを探る研究としてルーマン自身による時間の知識社会学を取り上げた。暫定的な結果として、ルーマンによる時間の知識社会学において、連続で線形な時間の観察図式それ自体が可能様相によって包まれているという知見を得た。この知見を『社会システム研究』への投稿論文として発表した。 また11月の日本社会学会では、ルーマン社会システム理論の脱パラドクス化と平行する問題として、社会構築主義における0G問題の系譜を、論理学・分析哲学における「嘘つきのパラドクス」をめぐる議論と平行させて整理し、その議論の地平に含まれる盲点を指摘した。 7月にはISA World Congress of Sociology XVII, Swedenに参加し、そのときのセッションをきっかけにしてリスク認知の国際比較を行っている英国Kent大学のAdam Bergess氏と堀井光俊氏の共同研究(日本における過剰なインフルエンザマスク着用に関するリスク社会学的考察)に参加することとなった。これはルーマンによるリスク社会論の精密化へとつながるものである。 また京都大学GCOE「親密圏と公共圏の再編成を目指すアジア拠点」において、EASS 2006のデータを用いてアジア圏における家族観の計量的な国際比較を行い、その成果をいくつかの研究会において報告した。結果として、高学歴化が急速に起こった社会(台湾)においては、高学歴ダミーが家族観の変容へと有意な効果を持つことがわかった。この成果は「圧縮された近代」(Chang Kyung-Sup)の議論へとつながるものであり、それを経由してルーマンによるリスク社会論の検討へもつながるものである。
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