平成22年度は、現代インドの都市における重層的な公共性と地域主義を理解することを目的とし、計画都市、ナヴィ・ムンバイの商業活動と都市計画に焦点を当て、以下の研究を行った。 1.平成21年度の調査を元に、コスモポリタン都市と地域主義の関係性について研究ノートを執筆した。本稿は、商店街における看板のマラーティー語化とガネーシャ祭を事例とし、それらに対応する商人たちが用いる「ビジネス」の論理を考察することで、かならずしも実態にそぐわない「コスモポリタン」という概念が、現地の商人たちが現実を捉えるための道具としていかに用いられ、現実の生成にいかに作用しているのかを論じた。 2.ナヴィ・ムンバイの公共性を都市計画の論理や都市建設の物質的な側面から検討するため、平成22年8月、9月に現地調査を行った。主にナヴィ・ムンバイの「都市問題」に取り組む現地研究者との面談を行った。また、ナヴィ・ムンバイ建設に関わった建築家へ彼のガンディー主義的都市計画の思想に関するインタヴューを行い、資料を収集した。調査結果を〈都市と村〉の範疇についての考察を中心にまとめ、研究会で報告した。 3.10月以降はインドにおける市民社会と商人についての文献調査を行った。なかでもアルジュン・アパドゥライの議論に注目し、固有の都市と、そこでの住宅や露店の商品、NGO活動など特定のモノや出来事へ注目することから、インドの市民社会を捉えなおす視点を得た。本研究の達成には、人類学における人格論の蓄積を参照しつつ、モノと人のつながりに目を向ける必要があると認識した。
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