本研究の目的は、病原体認識機構として知られるNucleotide-binding oligomerization domain(Nod)様受容体(NLR)の病原性大腸菌(EPEC)感染による活性化機構を分子・生体レベルで明らかにすることを目的とする。前年度は、EPECによるマウスマクロファージのNLR活性化機構を解明し、ヒトのEPEC感染症に相当するマウスCitrobacter rodentium感染モデルの確立を行った。前年度で得られた結果より、NLR活性化は腸管の感染防御に重要である可能性が示唆されたため、本年度は腸管のNLRが関与する免疫応答について解析を行った。 1.ASCが関与する腸管の感染防御機構の解明:C.rodentiumの除菌には様々な腸管の免疫応答が関与することが報告されており、貪食細胞の活性化に重要なTh1細胞、好中球の遊走に重要なTh17応答、抗原特異的な抗体応答、抗菌ペプチドの産生等が挙げられる。現在得られている結果では、ASCノックアウトマウスではTh17応答が野生型マウスと比較して半分近く減弱するというデータが得られている。またASCノックアウトマウスにおいては、Th17応答の減弱に伴い、感染部位への好中球の遊走も減少していた。マクロファージ系(CD11b+)及び樹状細胞(CD11c+)などの他の貪食細胞の遊走は野生型マウスと同様であった。 2.Caspase-1が関与する腸管の感染防御機構の解明:Caspase-1ノックアウトマウスにおいては、Th17/Th1応答は野生型マウスと同様であった。感染時に感染局所に遊走する貪食系細胞の遊走をFACSにて解析したところ、野生型マウスとほぼ同様であった。また、感染から9日後のマウス腸管よりmRNAを抽出しβ-defencine、RegIII、S100タンパク質等の抗菌ペプチドの発現レベルを確認したところ、各マウス間での差は認められなかった。 以上より、腸管においてASCはTh17細胞の誘導に関与する可能性が示唆された。その一方で、Caspase-1はASCとは異なる免疫応答を制御する可能性が示唆された。
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