研究概要 |
動物による送粉は,送粉者を花に誘引する過程と,訪花した送粉者と柱頭,葯間で花粉を授受する過程に分けられる。このため,送粉者の違いによる適応的種分化の過程について理解を深めるには,花色・花香などの誘引に関する形質と,柱頭や葯の位置などといった花粉授受に関する形質の両方について,送粉・受粉成功への貢献度を評価する必要がある。 本研究では,それぞれアゲハとスズメガに適応したハマカンゾウとキスゲを用いて,各花形質の送粉・受粉成功への貢献度を測定した。野外にハマカンゾウとF2雑種で構成された実験集団を設置し,訪れたアゲハとスズメガの行動を観察し,訪花された花から柱頭を採取した。柱頭上上の各花粉の遺伝子型を特定することにより,各株の送粉・受粉成功を評価した。 アゲハは,弱い香りのある赤花を選好し,中間的な高さの花茎を持つ株によく訪花する傾向がみられた。他家受粉成功では花香強度と花茎の高さに安定化選択が,送粉成功では柱頭葯間距離に分断化選択がみられた。スズメガも,アゲハと同様赤花を選好する傾向がみられた。花粉授受では,柱頭葯間距離が小さいほど他家受粉を多く得ている傾向があったのに対し,送粉成功では柱頭葯間距離が大きい方が有利だった。誘引と花粉授受を統合した指標を用いると,アゲハでは,花色への方向性選択,花冠の向きと花茎高さへの安定化選択,柱頭葯間距離への分断化選択がそれぞれ検出された。スズメガでは花色への方向性選択のみが検出された。 スズメガによる訪花では,柱頭葯間距離にメス繁殖成功(他家受粉)とオス繁殖成功(送粉)介して逆方向の選択が検出された。これは性的対立を示唆している可能性がある。雌雄間での対照的な選択がはたらくは一般的であると予想されており,本研究はこの仮説を支持する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,性的対立の可能性が示唆された柱頭と葯の位置について,その原因を明らかにするために,測定する形質を増やして訪花実験を行う。この実験では柱頭や葯の位置に十分な表現型分散を確保するためにF2雑種のみで構成された実験集団を用いる。また,野外でスズメガの幼虫・蛹を採集し,訪花経験のないスズメガを用いた実験を行う。 これまでに得たデータをまとめて,国際学術誌に論文を投稿する。
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