研究概要 |
深海のメタン湧水に成立する化学合成生態系の進化を解明することを目的としている.中生代後半から新生代前半(約1億2千万年前から2500万年前)は,化学合成生態系内で腕足類から二枚貝類への大きな生物相転換があり,また,現在の化学合成軟体動物類の多くの属が出現した時代として,着目している.本年度は,古生代から前期白亜紀まで繁栄していた化学合成腕足類を駆逐したとされる,海底面上に体の全部もしくは一部を露出させた表在性・半埋没性の化学合成二枚貝の時空分布を明らかにすることを主眼に研究を進めた.具体的には,北海道および米国カリフォルニア州の前期白亜紀メタン湧水堆積物から採集された(一部は研究代表者自らが採集した)表在性・半埋没性の化学合成二枚貝類カスピコンカ類を対象として,記載を行い,殻形態と産状から生息環境の推定を行った.米国カリフォルニア州の化学合成二枚貝は分類学上の位置について疑義が指摘されていたが,本研究の結果,カスピコンカ類であることが明らかとなった.また,北海道標本についてもカスピコンカ類であることが確認された.既往研究も含めてカスピコンカ類の時空分布をまとめたところ,カスピコンカ類はジュラ紀から前期白亜紀のメタン湧水において繁栄し,化学合成腕足類と同様に,後期白亜紀に衰退したことがわかった.つまり,表在性・半埋没性の化学合成二枚貝類が化学合成腕足類を駆逐したとされる従来の考えは否定されることとなった.堆積物中に完全に埋没する化学合成二枚貝類には,中生代後半における栄枯盛衰は見られないため,海底面表面に生息する腕足類と二枚貝類にのみ影響をもたらした地質・生物学的イベントがあったことが想定される.
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