研究概要 |
これまで重点的に研究を行ってきたジュラ紀以降の化学合成群集の変遷についての結果をまとめることができた.特に,現在のメタン湧水で繁栄しているシンカイヒバリガイ類とシロウリガイ類のジュラ紀から白亜紀における化石記録を再検討した.その結果,これまでの報告例のほとんどはカスピコンカ類であることを明らかにした.この結果,前期白亜紀末を機に,メタン湧水の海底表面に生息する化学合成二枚貝は一時姿を消し,古第三紀始新世に復活することが明らかになった.この結果は.国際誌に投稿し,受理された. また,群集の入れ替わりが起きた時代を特定するために,北海道浦幌町と和歌山県串本に分布する古第三紀のメタン湧水を疑われる岩体の現地調査を2010年度に実施した。本年度は,室内において,現地調査の結果のまとめ,および詳細な岩石学的記載と地球化学的分析を行った.その結果,両地域の岩体がメタン湧水起源であることが確かめられた.さらに,特に浦幌町の岩体については,シロウリガイ類やシンカイヒバリガイ類がパッチ状に分布している様子が確認され,現在のメタン湧水生態系とほぼ同じ生態系が,古第三紀漸新世には成立していたことが明らかとなった. さらに,2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に対応して,地震が引き起こしたであろう海底擾乱と海底メタン湧水の活発化による深海生態系,化学合成生態系の調査航海を執り行った.この調査航海の結果,三陸沖の広い範囲で海底の擾乱があったことを確認した.一部のサイトから化学合成二枚貝類の採取することに成功し,これまで取り組んできた長期的な化学合成生態系の変動に加え,短期的な変動についても知見を蓄積しつつある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中生代ジュラ紀~白亜紀の化学合成生態系の研究は順調に進展している.一方,古第三紀の化学合成生態系についての研究については,現地調査はほぼ完了し,岩石学・地球化学的な室内実験を進めているが,実験が若干遅れ気味である.これは,本研究に関連した東北地方太平洋沖地震に対応した研究を展開させたことによる.
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今後の研究の推進方策 |
これまで同様に,現地で得られる地質情報と室内実験で得られる岩石学,古生物学,地球化学的なデータとを統合させて,白亜紀から古第三紀における化学合成生態系の進化を明らかにしていく.得られた成果については,学会や学術誌に積極的に公表していく.
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