研究概要 |
農業生物資源研究所(NIAS)の世界のイネコアコレクション(69品種)を材料として用い,湛水・湿潤畑(土壌水ポテンシャル-0.10MPa)・乾燥畑(同-0.52MPa)といった異なる土壌水分に対するイネ幼植物の物質生産反応の遺伝的変異を解析した.全乾物重の度数分布は湛水区と湿潤畑区で類似した分布を示し,乾燥畑区では他の2区に比べ低い階級に多くの品種が分布した.全乾物重について,いずれの処理区でもインディカ,ジャポニカ亜種間に明瞭な差異は認められなかった.吸水量と全乾物重にはいずれの処理区においても強い正の相関関係が認められた.一方,水利用効率と全乾物重には有意な相関関係が認められなかった.このことから現存する栽培イネの物質生産能は吸水能が強く関与しているものと推察した.しかし両畑条件下で物質生産量が多い品種の中には,他の品種に比べ水利用効率が高いものがいくつか存在し,限られた水資源による安定的稲作には水利用効率の遺伝的改良も一つの要点であることが示唆された.根乾物重および冠根数を調査した結果,いずれの形質も吸水量と有意な相関関係が認められた.このことから根系発達は吸水能と密接な関係があることを認めた.現在,根長や根表面積などより詳細な形態的特性についても調査中である.また根重あたりの吸水量にはいずれの処理区でも幅広い品種間変異が存在した.この度数分布は湛水区では亜種間で明瞭な差異は認められなかったが,両畑区ではジャポニカ品種が上位にくる特徴があった.これらのことから根の量的な発達だけではなく,単位根量あたりの吸水量を高めることも,吸水能の飛躍的向上に寄与する可能性が示唆された.
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