研究概要 |
平成22年度、マンガンおよび鉄錯体を触媒に用いる新規な合成反応の開発を目的に研究した。また既知の反応であっても、安価な鉄触媒を用いて高効率に反応が進行すればより有用な合成反応となりうると考え、種々のマンガン、鉄錯体を用いて反応を探索した。 1.鉄触媒による炭素-窒素結合の切断を伴うアミノ酸誘導体の合成 触媒量(20mol%)の塩化鉄(III)存在下、N,N-ジメチルアニリンとジアゾ酢酸エチルをエタノール中反応させると、アミノ酸誘導体が得られることを見いだした。本反応では、N,N-ジメチルアニリンのメチル基炭素-窒素原子間の結合が切断され、ジアゾ酢酸エチルから発生したカルベン炭素との間に新たな炭素-窒素結合を形成する。臭化マンガン(II)でも同様に進行した。一般に炭素-窒素結合は不活性であり、遷移金属触媒を用いて切断している報告例は少ない。従来ロジウム触媒を用いて、窒素原子に隣接した炭素-水素結合へのカルベンの挿入反応が進行することが知られているが、本反応では鉄およびマンガン触媒がロジウム触媒とは異なる反応性を示したことから、興味深いと考え論文として報告した(Chem.Commun.2010, 8860.)。また本反応では安価で入手容易な塩化鉄を用いており、添加剤なども必要ないことから有用であると考えている。 2.レニウム触媒を用いる1,3-ジエステルと末端アルキンからの位置選択的なフェノール誘導体の合成マンガン触媒を用いて1,3-ジエステルと末端アルキンの反応を探索していたところ、マンガンと同族のレニウムのカルボニル錯体を用いると、位置選択的にフェノール誘導体が得られることを見いだした。研究の目的であるマンガン触媒の新規反応ではないが、これまでにないフェノール骨格の構築法として興味深いと考え論文として報告した(Chem.Lett.2010, 39, 894.)。
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