研究概要 |
生体アミン系は行動が改変される一般的メカニズムとして有力な候補である(Stevenson et al.2000).オオツノコクヌストモドキにおいて生体アミン関連遺伝子の本種でのクローニング(配列決定)を完了し,オクトパミン受容体,オクトパミントランスポータ,オクトパミン合成酵素二種(チロシン脱炭酸酵素,チラミンβ水酸化酵素)の配列を得た。闘争行動後の個体の脳や食道下神経節において、リアルタイム定量PCR法を用いた発現解析から,闘争の勝敗によって生じる脳内の変化を探索した結果,オクトパミン経路遺伝子には勝ち個体,負け個体で顕著な差はみられなかった.しかし,オクトパミンアゴニスト(亢進薬>であるクロロジメフォルムの経口投与によって本経路の闘争行動への関与を調べた結果,クロロジメフォルムは0.75%以上の濃度において,オオツノコクヌストモドキの攻撃行動を抑制することがわかった.これらのことから,オクトパミン経路は攻撃性に関与しているが,勝ち癖・負け癖の制御においては脳内の局所的な経路の活性化が関与していると考えられる. 行動学解析と並行して,闘争の勝敗に影響する武器形態および武器を支える器官の適応的機能と形態形成メカニズムについて研究を進めてきた.これまで,大きな武器を備えるには武器を支える器官が重要であることを見出し,実際の闘争においても支持形質の適応的意義が支持されている.この結果は行動学の国際誌Animal Behaviourに掲載された.また,幼若ホルモン(JH)が武器である大顎の誇張化に加えて,頭部を支える胸部や角の成長をも促進することを見いだしており,現在この結果を国際誌に投稿している.
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今後の研究の推進方策 |
現在,オクトパミンアゴニストとしてクロロジメフォルムのみを用いているため,ほかのアゴニストでもその効能を確認する.さらに,RNAi法による遺伝子ノックダウンによってオクトパミン経路遺伝子が攻撃行動に及ぼす影響を検証する.また,次世代シーケンス法を用いた網羅的遺伝子発現解析から,攻撃行動および闘争形態の作出に関わる遺伝子を特定する.武器形成遺伝子においては大顎が長い系統と短い系統の間で前蛹期の遺伝子発現を比較する.また,攻撃性関連遺伝子では勝ち個体と負け個体の比較を予定している.
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