研究課題/領域番号 |
10J04181
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山崎 剛士 北海道大学, 大学院・獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | プリオン / 異常型プリオン蛋白質 / 細胞内輸送 / 細胞内局在 / 持続感染成立 / 感染初期 |
研究概要 |
ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病や牛海綿状脳症、ヒツジのスクレイピーに代表される伝達性海綿状脳症の病原体、プリオンの主要構成要素は異常型プリオンタンパク質(PrP^<Sc>)であると考えられている。PrP^<Sc>は宿主細胞の細胞膜表面に発現している正常型プリオンタンパク質(PrP^C)から産生されるが、PrP^<Sc>産生の詳しい分子機序については十分に理解されていない。本研究では、プリオンの細胞内増殖機構を分子レベルで解明することを目標に、PrP^<Sc>の産生に関わる分子機構を、細胞の膜の輸送機構に着目して解析している。 これまでは、プリオン持続感染細胞を用いて、PrP^<Sc>の持続的な産生機構およびPrP^<Sc>の細胞内輸送機構を解析してきたが、平成23年度は、プリオンが細胞に侵入してから持続感染を成立させるまでの過程に着目して解析を行った。まず、蛍光抗体顕微鏡法に基づいて、感染源として接種したPrP^<Sc>と新規に産生されたPrP^<Sc>を区別して検出する方法を確立した。次に、生細胞タイムラプスイメージングと上記の検出法を駆使して、接種したPrP^<Sc>と新規に産生されたPrP^<Sc>の局在および輸送経路を解析した。その結果、接種したPrP^<Sc>のほとんどが後期エンドソームや二次リソソームなどのタンパク質の分解に関わる細胞内オルガネラへと輸送される一方で、新規に産生されたPrP^<Sc>は、膜受容体などのリサイクルに関わる細胞内オルガネラに存在することが分かった。このことから、PrP^<Sc>の新規産生には、分解経路へと輸送されたPrP^<Sc>が膜のリサイクリング経路へと輸送されることが重要であると考えられた。以上の結果は、プリオンの細胞への感染、特にその初期段階を理解する上で重要な知見となると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載の通り、細胞内での異常型プリオン蛋白質の産生に関わる分子機構に関して、膜の輸送小胞や輸送に関わる具体的な因子などが同定されてきている。さらに、これまでは神経芽腫由来N2a細胞系を用いて解析してきたが、現在はマウス視床下部由来GT1-7細胞や、中枢神経系由来初代培養神経細胞を用いた解析も同時進行しており、特にGT1-7細胞を用いた解析に関しては、N2a細胞を用いた解析と同程度の研究成果が蓄積している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは、既存の培養細胞系を用いて解析を行ってきたが、生体内でのプリオンの感染機構やプリオン病の病態機序を解明するためには、より生体内の環境に近い実験系で解析する必要がある。そこで、今後は中枢神経系由来初代培養神経細胞を用いて、プリオンの細胞への侵入から細胞内増殖、感染成立に至る分子機序を解析する。また、実際の生体内での異常型プリオン蛋白質の蓄積部位を、細胞内オルガネラレベルで解明するため、マウス脳由来凍結切片を用いて解析する予定である。
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