平成22年度は低酸素環境下で発現が誘導されるmicroRNA(miRNA)、miR-210の機能解析を中心に進めた。研究対象としたmiR-210は、もともとはヒト巨核芽球性白血病細胞株UT-7がエリスロポエチン依存性に赤血球系の表現型を獲得する際に強発現するmiRNAの一つとして注目した分子であるが、miR-210が低酸素環境下において発現が強く誘導されることが報告された。さらに低酸素環境下におけるがん細胞の挙動は、転移や薬剤耐性と関わっている事が知られていることから、miR-210の発現制御機構や機能を解明することで、miRNAのがん細胞の悪性化や薬剤耐性への関与を明らかにできると考えた。はじめに、ヒト乳がん細胞株MCF7において、ルシフェラーゼをレポーター遺伝子としてmiR-210のプロモーター領域を同定した。さらにsiRNAを用いてHIF-1αの発現を減少させた結果、miR-210の発現が減少した。また、miR-210の標的遺伝子をデータベースより選定し、ルシフェラーゼ下流に標的遺伝子の3'UTRを組み込み、標的遺伝子としての可能性を評価し、鉄-硫黄クラスター形成に必要なISCUと細胞内への鉄取り込みを担うトランスフェリンレセプターの翻訳を抑制することも明らかにした。 miR-210は鉄代謝に関わる2つの遺伝子の発現を制御することで、鉄代謝に関与していることが強く示唆された。薬剤耐性に関わる結果ではないが、本年度はmiR-210が、がんの予後因子の一つであるHIF-1αによって発現が誘導されることから新たなバイオマーカーの可能性を、また鉄代謝関連遺伝子ISCUとトランスフェリンレセプターの発現を制御することから新たな治療標的への可能性となる貴重な結果となった。今後は、取得したmiRNA解析技術を応用し、分泌型miRNAの薬剤耐性能への関与を明らかにしていく。
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