本研究の目的は、農産物の非対称価格伝達の要因について産業組織論の諸理論を用いて理論的に説明すること、経済理論的背景を持つ推計モデルを構築すること、様々な農産物を対象に非対称価格伝達に関する実証分析を行うこと、である。本年度の研究計画では、第一に、産業組織論における寡占理論やゲーム理論、サーチ理論の学習による基礎的理論の習得、第二に、寡占市場におけるマーケット・パワーや調整費用、サーチ理論等の非対称価格伝達の要因に関する理論研究の整理を行うこと、第三に、農産物貿易過程の市場構造の調査および非対称価格伝達の推計を行うこと、である。これまでに、第一の計画に基づき関連諸理論の研究を行い、第二の計画に基づき、マーケット・パワーの理論的導出を研究する他、理論的背景を持つ推計方法について研究を行った。特に、新しい実証的産業組織論において、マーケット・パワーを推測的変分を用いて理論的に導出し、誘導形モデルを推計する方法や、構造モデルを用い、パラメータとしてマーケット・パワーの程度を推計する方法、動学的最適化問題を解くことで推測的変分としてのマーケット・パワーのパラメータを動学モデルの推計により求める方法等が近年主要なものとなっていることが確認された。第三の点については、パーム油や大豆、菜種の非対称価格伝達の推計およびその市場構造もしくはマーケット・パワーとの関係について、輸出国の輸出過程を対象に実証研究を行った。その結果、売り手(買い手)のマーケット・パワーと正(負)の非対称価格伝達の関連性が示された。これらの実証研究については国内外の学会で報告し、論文として投稿した。
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