研究概要 |
本研究では金属イオン交換ゼオライトをナノ特異反応場として利用した室温で安定に存在するXe化合物の創製を目指している.この目的を達成するためには,Xeと金属イオンとの化学結合の本質を明らかにする必要がある.そこで23年度はXeとd^<10>金属イオンとの相互作用について以下の研究を行った. 1.ゼオライト中で形成されたXe-Cu^+結合の構造解析 X線吸収微細構造(XAFS)スペクトルを測定し,室温でゼオライト中に形成ざれたXe-Cu^+結合の構造解析を行った.これまで,Xeを中心としたXe-Cu^+結合の構造解析を行った例は無く,今回初めてXe K-edge XAFSを用いてXe-Cu^+間の結合距離を求めた結果,R(Xe-Cu^+)=2.51Åであり,Cu K-edge XAFSから求めた結合距離(2.45Å)とよく一致した. 2.亜鉛イオン交換ゼオライトが示すXe挙動に関する検討 Xeと強く相互作用するCu^+と同じd^<10>電子配置を有するZn^<2+>交換MFI(ZnMFI)に関する検討を行った.ZnMFIが室温で水素を解離吸着する現象に注目し,DFT計算を用いて水素に活性を示すZn^<2+>交換サイトの特定を行った.このサイトに交換されたZn^<2+>とXeとの相互作用について検討したが,Xeとの強い相互作用は観察されなかった.実験においてもZhMFIはXeを特異に吸着する現象は見られず,計算結果を支持する結果が得られた. 3.計算化学による金属イオンとXe間の相互作用における電子状態解析 新たな電子状態解析法(IFO解析)を採用し,金属イオン-Xe間の相互作用における電子移動の様子を観察した.その結果,Xeから金属イオンへの電子移動を確認することができた.今後,IFO解析を始めとする電子状態解析を用いて,金属イオン-Xe間の相互作用について更なる検討を行い,Xeと結合可能な金属イオンの状態の特定を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
23年度は計算化学に力を入れて研究を行った.共同研究者(京都工芸繊維大学小林久芳教授,湯村尚史助教)との議論を積極的に行うことにより,反応性の高い金属イオン交換サイトの探索や新しい解析法の開発において飛躍的に進歩した.特に,本課題に応用可能なZnMFIとH_2との相互作用を計算化学から解明できた点は,非常に大きな進展であると自負している(学会発表においても高い評価を得た). 以上の点から,(1)当初の計画以上に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
23年度に身につけた計算化学的な技術(新たに開発した電子状態の解析法,活性サイトの探索方法)を用いて金属イオン-Xe間の相互作用について更なる検討を行い,Xeと結合可能な金属イオンの状態の特定を目指す.実験において,Xe K-edge XAFSを用いたXe-Ag間の結合距離の測定を行い,以前求めた結合距離との比較を行う.また,Xeを吸着したAgFERについて(MAS^<129>Xe-NMR)の測定を行い,より明瞭なスペクトル測定を試みる.また,装置の不調により23年度の目標であった吸着熱測定が未だに出来ていない.そのため,早期に対応し,吸着熱からXe-金属イオン間の相互作用の強さ(結合エネルギー)を議論したい.以上のように,実験と計算化学の両面からXe-金属イオンの結合に関してより深い知見を得たい.
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