研究概要 |
本年度は、温度応答性ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)ブラシ表面の表面設計を検討し,この手法を用いて糖構造を有するモノマーとの共重合により糖構造導入や配列が与える細胞接着性への影響を評価した。また,低磁場パルス核磁気共鳴(NMR)測定を用い,表面物性の解析手法としての有用性を検証した。PNIPAAmブラシのグラフト配列制御として逐次的な表面開始重合を検討した所,第一段階の重合停止条件を検討することで良好に第二段階のポリマー生長を進行させることができた。この手法は,空間的な相互作用制御を実現するために必須となる表面設計であり,本研究が目指すバイオマテリアル応用において重要な技術となる。NIPAAmブラシの水和状態を詳細に解析するため,低磁場NMR測定による水の緩和時間を評価した。PNIPAAm修飾した多孔性シリカ粒子では,接触角測定による表面ぬれ性変化や示差走査熱量測定による吸熱ピークと同じ温度領域で緩和時間変化の変曲が確認され,狭い空間ではPNIPAAmブラシの細孔内占有によるポリマー鎖間の水素結合やバルク水の運動抑制が顕在化した。これらの結果から,PNIPAAmブラシの相転移挙動や細孔サイズを反映した緩和時間変化を確認することができ,ポリマーブラシの水和構造をin situ測定できる新しい手法を実証した。構造制御したPNIPAAmブラシ表面のバイオマテリアル応用を目指し,・糖鎖構造を有する2-ラクトビオンアミドエチルメタクリレート(LAMA)とNIPAAmを配列制御させたコポリマーブラシ表面を調製し,温度変化に対する肝実質細胞接着性を評価した。LAMAを導入したNIPAAmコポリマーブラシ表面は,無血清条件下でも培養温度37℃において高い細胞接着性を示し,LAMAをブロック共重合した表面でのみ,顕著な細胞脱着性を示した。ポリマーブラシ構造が生体分子との相互作用制御に重要であることが示され,温度変化で肝実質細胞のみの接着/脱着性を制御できる選択的な回収法への応用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリマーブラシの構造制御法については,syndiotactic選択性が制御できていないがisotactic選択性やグラフト密度・配列は制御できている。それら構造制御されたポリマーブラシの相転移挙動についても、低磁場NMRを用いることでポリマーブラシの水和構造をin situ測定できでおり、その他の既存測定法を用いた実験結果と比較・評価することで詳細に解明できると考えている。本手法を用いたキラル認識性については未着手であるが,構造制御したポリマーブラシを用いた新規培養表面の開発など新たなバイオマテリアル応用も展開している。これらの成果は継続的に学会や論文で発表しており,おおむね順調に研究計画は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
ポリマーブラシの構造制御および相転移挙動解析については,引き続きこれまでの方針を遂行していき,今後はキラル認識性について重点的に検討を進めていく。具体的には,新たに光学活性重合開始剤を調製し,これまでに検討してきた立体規則制御ポリマーブラシの調製法を適用する。評価法については,修飾基材として多孔性シリカ粒子を用い,それらをカラム充填して基材と溶質との相互作用を制御するクロマト的手法を実施する予定である。しかし,キラル分子を対象とした相互作用制御はこれまでに検討していないため,研究計画が順調に進まない可能性も考えられるため,本手法を用いた細胞選択性・核種選択性など他方面への応用も視野に入れて検討を進めていく。
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