研究概要 |
本年度は,これまで検討してきたポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)ブラシ表面の立体規則性の制御に加え,光学特性を同時に規定させ,その界面でのキラル認識能を評価した。本研究ではポリマーブラシの調製に表面開始原子移動ラジカル重合(ATRP)法を用いており,そのATRP開始剤に光学特性が規定されている(5)-エピクロロヒドリンをアミノシラン化した多孔性シリカ粒子に固定化した。この開始剤固定化シリカ粒子を用い,立体規制触媒であるY(OTf)_3存在下でNIPAAmを表面開始重合した。このシリカ粒子をクロマトグラフィー担体として用い,光学異性体であるDL-3-アミノ酪酸を水系移動相条件で導入した所,DL体の各試料は分離されたピークとして検出された。これらの溶出挙動は温度に依存しないことから,表面ぬれ性評価で見られたisotactic PNIPAAmブラシの水和特性により温度応答性が見られなかったと考えられる。立体規則性を制御したPNIPAAmブラシの水和状態を詳細に解析するため,前年度までに確立した低磁場NMR測定による水の緩和時間を評価した。同様の多孔性シリカ粒子を用いたatactic PNIPAAmブラシ表面では,T_1,T_2において表面ぬれ性変化と同じ温度領域で緩和時間変化の変曲が確認されたのに対し,isotactic PNIPAAmブラシ表面ではT_2のみが僅かに低温領域で変曲点を有していた。この変曲点は,相転移に伴う水の運動性が変化した事を示しており,isotactic PNIPAAmブラシ表面では,より運動性の遅い水分子(強固にポリマー鎖と水和した水分子等)のみが温度変化によってPNIPAAm鎖との相互作用が変化しており,マクロな相転移を起こさない事が示唆された。以上の結果から,本研究により立体構造制御したポリマーブラシ表面によるキラル認識能の付与が可能となったが,温度制御による溶出制御は実現できなかった。グラフト配列制御を利用し,温度応答性を有するPNIPAAm鎖をブロック構造で導入する事で,温度応答特性を付与した機能的なキラル認識界面の創製が可能になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,最終目標である機能性キラル界面の創製を目指した。立体構造制御したポリマーブラシ表面によるキラル認識能の付与が可能となったが,温度制御による溶出制御は実現できなかった。これまでに検討してきたグラフト配列制御手法を用い,温度応答性を有するPNIPAAm鎖をブロック構造で導入する事で,温度応答特性を付与した機能的なキラル認識界面の創製が可能になると考えられ,研究方針として順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
機能性キラル界面の創製に向けて実際に光学異性試料を用いた溶出制御まで検討することで,これまでの検討により実現可能な点と問題点が明らかとなった。キラル認識界面の作製には,立体規則性および光学特性が重要であり,今後はこの界面に温度応答特性を付与するための異なる構造をもったポリマーブラシの導入が必要となる。この検討課題は,昨年度から検討しているグラフト配列制御手法を用いることで達成できると考えられる。また,これらの検討から,機能性モノマーを用いたブロックコポリマーブラシによる非侵襲的・大量回収可能な細胞分離システムの基盤技術も構築することができた為,今後は本手法を用いて様々な応用へと発展させていく予定である。
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