本研究は、ルーマニアのトランシルヴァニア地方において活動する「ラウターリ(Lautari)」の音楽活動が人々に与える影響を、その社会、政治状況から考察することが目的である。平成22年7月~10月は、ルーマニアにおいて今後の長期調査のための人脈作りと調査地の選定を主眼とした短期フィールド調査を行った。具体的にはルーマニア文科省所属のGeorghe Sarau氏、ブカレスト大学所属の人類学者で運動家のDelia Strigosl氏らといった研究者から現地の最新の研究動向やルーマニア国内における「ジプシー(ロマニ)民族」の啓発活動ついての情報を収集した。また、NPO団体RomaniCrissの活動に参加し、支援対象となっているババダグ市のムスリム系のジプシー集落を訪れた、こうした活動を通しルーマニア社会の中で多くが職業集団で分類されているジプシーの人々の様々な社会、経済的在り様を把握することができた。加えて、ジプシー音楽家ラウターリの活動状況について明らかにするため、ルーマニアの大手プロダクションでの調査を実施した。具体的には作曲家、マネージャー、歌手らにインタビューを行い、音楽制作の仕組みや制作上の問題点、革命前後の制作状況の変化などの把握に努めた。その結果音楽活動に携わるジプシーは、他の職業に従事するジプシーと違って世襲的な要素は比較的少ないことや音楽産業として成り立たせるための彼ら独自の販売戦略の実態が明らかになった。さらに、ジプシー音楽を分析していく上で、重要となる「ロマニ語」について、教育現場で実際に教えている場に立ち会い現代における在り方を調査した。そこで明らかとなった言語と民族意識との関連については今後の新たな課題となった。また、これらの過程で、6月に行われた日本文化人類学会第44回研究大会において発表を行った。
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