本申請研究の目的は、原核生物特有のファージ耐性遺伝子領域であるCRISPRに基づいて、アオコ環境における有毒ラン藻ミクロキスティスとそれに感染するファージの「感染の組み合わせ」の多様性を明らかにすることである。 本年度は、まず、4株のミクロキスティス培養株についてCRISPR領域の全塩基配列を決定し、ゲノム配列が既報である2株を含めその配列を解析した。CRISPR領域内のスペーサー配列はファージゲノムに由来し、株固有のファージ感染履歴を表す。スペーサー配列を比較した結果、そのレパートリーは株により全く異なっており、環境におけるファージの多様性を反映した、CRISPRの高度な多様化が明らかになった。スペーサーと相同な配列をデータベースに検索した結果、本種感染性ファージであるMa-LMMO1と相同な配列が5個見出され、CRISPRがファージ感染履歴として機能することを実証することができた。また、ミクロキスティスのプラスミドと相同なスペーサーが複数の株に多数見出されたこと、ならびに互いに相同な配列を持つスペーサーが複数の株間に記録されていたことから、比較的宿主域の広いファージ/プラスミドとの複雑な相互作用が明らかとなった。 さらに、環境試水からミクロキスティスのCRISPRを選択的に増幅するPCR法を開発し、広沢池(京都市)で採取した表層水に対し適用した。その結果、CRISPRに由来する複数の増幅産物を得ることができた。92クローンの配列を決定し比較すると、それらは互いに異なるスペーサーを持つ24タイプに分類された。以上のように、分離株ならびに環境クローンの解析により、アオコ環境におけるCRISPRの多様性の一端を明らかにすることができた。
|