本年度は、血管異常収縮の原因分子であるスフィンゴシルボスホリルコリン(SPC)が、活性酸素の一種であるOHラジカル依存的に、スフィンゴミエリン(SM)から産生されることを、分子・細胞レベルで証明するための研究を行い、以下の成果を得た。 1.分子レベル:OHラジカル依存的なSPC産生が特異的な反応であるかどうかを検討するため、SM分解産物について、インフユージョン導入法によるLC-MS分析を行った。これまでのSPC産生溶液においては、SMを完全に溶解させるため、TritonX-100を含む溶液を用いていたが、直接的なインフユージョン導入法では分析を阻害するため、TritonX-100を含まない溶液を用いて反応を行った。LC-MS分析の結果としては、SPCのm/zである465.3付近にシグナルの僅かな増加が認められ、また、それ以外のいくつかのm/zにおいても増加が認められた。以上のことは、OHラジカル依存的に複数のSM分解産物が生じている可能性、および、SPC産生量については、溶液組成の影響を受ける可能性を強く示唆している。 2.細胞レベル:本研究では、SPC産生メカニズムの基盤として、マクロファージのライソゾーム中における赤血球消化を想定している。そこで、ヒト単球系細胞THP-1を、や融刺激によりマクロファージ様細胞に分化させた後、赤血球(オプソニン化あり・なし)や赤血球膜ゴーストを食食させ、細胞内に生じるOHラジカルの量を蛍光指示薬であるHPFを用いて検出した。結果としては、これまでの実験でSPCが産生された条件である、オプソニン化赤血球を食食させた場合のみ、OHラジカルの著明な増加が認められた。以上のことから、ヘモグロビンを含む赤血球の食食・消化の過程でOHラジカルが産生され、そのOHラジカルが赤血球膜のSMに作用してSPCが生じている可能性が強く示唆された。
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