研究概要 |
細胞が増殖するためには遺伝情報を担うDNAを正確に複製する必要がある。DNA複製は、DNAヘリカーゼであるMCM複合体の複製開始点結合と活性化を経て開始する。MCMは、開始点にロードされるときは二重鎖DNAにdouble hexamerとして結合するが、活性化後はsingle hexamerが一本鎖DNAに結合していると考えられている。しかし、どのようにしてその変化が起こるのかはよく分かっていない。MCMの活性化段階では、Sld3、GINS、Cdc45などの因子がMCMに集合することが必要である。複製フォークにおいてMCMはGINS、Cdc45と強固な複合体(CMG複合体)を形成しており、これがヘリカーゼの核であると考えられている。一方でSld3は複製フォークと共に移動しないことから、複製開始段階でのみ必要であると考えられる。Mcm10は真核生物で保存された因子であり、複製開始に必要であること、またMCM活性化後も複製フォークに局在することから、Mcm10の機能を理解することでMCM活性化のメカニズムを知ることが出来るのではないかと考えた。私は条件誘導的蛋白質分解法(AID法)を分裂酵母で開発・構築し(Kanke et al., 2011)、この方法を用いてMcm10を細胞から除去して解析を行った。その結果、Mcm10がなくても複製開始点上にCMG構成因子が集合すること、さらにそれらと共にSld3が蓄積することを見出した。このとき、一本鎖DNAに結合するRPAやDNAポリメラーゼαの開始点結合は減少していたことから、開始点DNAの二重鎖開裂は起こっていないと考えられる。興味深いことに、Mcm10の保存されたzinc fingerモチーフにアミノ酸置換を導入した変異蛋白は複製開始点に結合するがRPAの結合は低下していた。zinc fingerは一本鎖DNAに結合する活性を持つ。私は、Mcm10はCMG複合体に結合して一本鎖結合活性によって開始点の開裂を安定化し、これによってMCM複合体の変化、およびそれに伴うSld3の解離が引き起こされるのではないかと考えている。
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