研究概要 |
神経活動によって核内で引き起こされる前初期遺伝子群の誘導は、単一神経細胞レベルでの可塑的変化の基盤となる過程である。この誘導の様子を可視化することは、高次脳機能の根本的な原理を解明する上で不可欠である。研究代表者はこれまでに前初期遺伝子の一つであるArcの刺激誘導性を担うエンハンサーであるSAREを発見し(Kawashima,PNAS,2009)、このエンハンサーが前初期遺伝子の誘導を可視化する強力なツールとなり得ることを示している。 本研究の目的は、これまでの成果を発展させ、前初期遺伝子の誘導を生体内でリアルタイムに観察可能にし、更にはこの可視化した神経細胞を遺伝子工学的に操作する実験系を構築することである。研究計画の1年目には、研究代表者は以下の成果を達成した。 成果1)SAREを用いたプロモーターの改良・最適化を行い、刺激誘導性を大幅に改善することに成功した。 成果2)昆虫細胞とバキュロウイルスを用いたアデノ随伴ウイルス(AAV)の大量精製法を習得した。更には、上記プロモーターを応用したアデノ随伴ウイルスベクターを作成した。 成果3)脳定位手術により、生きた動物(マウス・ラット)の脳内ヘウイルスを注入する手技を習得した。これを応用して、上記AAVを海馬・視覚野等の脳内の神経細胞に感染させることに成功した。 上記成果により、単一ウイルスベクターを用いて前初期遺伝子の誘導を生体内で観察可能となりつつあり、さらに、マウスのみならず多種の動物において今後の幅広い応用が期待される。
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