研究概要 |
本年度は、自治体労働者約2,000名を対象にした横断調査によって得られたデータの解析を元に、まず(1)日本人労働者に適した、なおかつ国際標準にも準じた職場のいじめ尺度を開発し、十分な信頼性・妥当性を確認した(英文論文掲載済み:Tsuno et al.,2010)。次にその尺度を用いて(2)職場のいじめと心理的ストレス反応・PTSD症状等の精神的健康との関連の検討を行い、職場のいじめ行為に週に1回以上曝露されている労働者は、個人属性、職業属性調整後においても、非曝露群と比べ、心理的ストレス反応リスクが5~8倍、PTSD症状の発症リスクが11倍も高いことを明らかにした。次に職場のいじめの規定要因を明らかにするために、(3)職場のいじめと職業性ストレス要因(仕事の要求度とコントロール、上司・同僚のサポート、努力と報酬の均衡状態など)との関連の検討を行い、個人属性・職業属性調整後、対人的公正が低い群、手続き的公正が低い群、努力-報酬不均衡状態が高い群で、それぞれ理論的に最もストレス度が低い群と比べて、4~7倍の職場のいじめ曝露リスクがあることを明らかにした。最後に(4)職場のいじめの尺度を使用して得られた実態の属性別検討を行い、過去6ヶ月間に、対象者9.7%が職場で1つ以上のいじめ行為を週に1回以上経験していたこと、またいじめ行為を受けていた群では既婚者よりも非婚者の方が多く、そして時間外労働時間が長いという特徴を明らかにした。 これらの結果により、日本人労働者においても約1割がいじめ行為に曝露されていること、また職場のいじめ行為に曝露されていると心理的ストレス反応やPTSD症状の発症リスクが5~11倍も高いということが明らかになり、公衆衛生分野、とりわけ産業保健分野においてこの事象に目を向けることの重要性を強く示すことができると思われる。また、関連するストレス要因が明らかになったことから、防止対策にも結びつけられると考える。
|