研究概要 |
昨年度までに信頼性・妥当性を十分に検討し国際標準にも準じて開発した職場のいじめ尺度を用い、1.職場のいじめと心理的ストレス反応・PTSD症状等の精神的健康との関連の検討を行い、職場のいじめ行為に週に1回以上曝露されている労働者は、個人属性、職業属性調整後においても、非曝露群と比べ、心理的ストレス反応リスクが5~8倍、PTSD症状の発症リスクが11倍も高いことを明らかにし、学会で発表した。2.職場のいじめへの曝露や目撃が、(1)精神健康の悪化や発生、(2)労働生産性の低下に与える影響を明らかにすること、また組織風土、役割葛藤・役割の曖昧さなどの仕事の進め方、上司のリーダーシップ、上司・同僚のサポートなどの職場組織要因および労働者の心理社会的特性が職場のいじめの発生に与える影響を明らかにすることを目的として、自治体労働者約5,300名を対象とした前向き研究のベースライン調査を実施し、約3,600名から回答を得た。3.単項目を用いて全国代表サンプル5,000名を対象に職場のいじめ・ハラスメントの全国実態の把握と属性別検討を行い、6.1%が職場でいじめを受け、14.8%が何らかのいじめ・ハラスメント行為を職場で目撃していることを明らかにした。また主観的社会階層や世帯年収が低い群で職場のいじめを受けるリスク、目撃するリスクが高かったことから、社会階層が職場のいじめに関連している可能性が示唆された。厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」のワーキンググループでも結果を紹介した。 これらの結果より、全国サンプルの日本人労働者においても約6%がいじめ行為を受けていること、1割以上の労働者がいじめ行為を目撃していること、また職場のいじめに曝露されていると心理的ストレス反応やPTSD症状の発症リスクが5~11倍も高いということが明らかになり、公衆衛生・産業保健分野、そして行政においてこの事象に目を向けることの重要性を強く示すことができたと考える。
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