研究課題
本研究の目的は、光吸収体にパルスレーザーを照射したときに発生する圧力波、すなわちレーザー誘起応力波(Laser-induced stress wave;LISW)による物理的遺伝子導入技術を用いて、難治性神経疾患に対する遺伝子治療を実現することである。本年度は特に、「遺伝子導入デバイスの開発」と「遺伝子治療効果の実証」に注力し、その成果を英文専門誌および国内外の学術会議で発表した。レーザーを用いた遺伝子導入法の特長として、光ファイバ適用による遺伝子導入デバイスの経カテーテル化が挙げられる。特に神経疾患の治療では、高度に局所的な遺伝子治療が望まれる。本年度は、外径2.71mmの光ファイバ式LISW発生デバイスを開発し、テストベットとしてのラット皮膚を対象にレポーター遺伝子の導入を成功させ、遺伝子導入デバイスとしての有効性を実証した。脊髄損傷後の機能改善には神経軸索の可塑性が重要であるが、損傷後に過剰発現した中間径フィラメント(GFAP、vimentin)から形成される療痕が神経軸索の再生を阻害する一因となっている。この過剰発現タンパクを抑制するための一つの方法として、特定の塩基配列をノックアウトしてタンパク発現を抑制する遺伝子、simA(small interfering IRNA)を神経系細胞に取り込ませる方法がある。本研究では、脊髄損傷モデルラットを対象として、過剰発現する中間径フィラメントを標的としたsiRNA溶液を髄腔内に注入後、LISWを適用し、タンパク発現の抑制効果と運動機能の改善効果を検証した。その結果、脊髄損傷のみの群に対して、LISW適用群で過剰発現タンパクの著しい抑制効果が認められ、損傷中心部の神経脱落の減少も確認された。脊髄損傷から3週間後までの運動機能を評価した結果では、LISW適用群において、脊髄損傷のみの群、siRNA注入のみの群に対して統計学的に有意に高いスコアが得られた。3週間後のLISW適用群では脊髄損傷モデルラットの前・後肢に頻繁な協調運動が観察され、本技術を用いた運動機能の改善効果を世界で初めて実証した。
1: 当初の計画以上に進展している
実験条件の最適化が、当初予想していたよりも順調に進んだため。
本研究課題が目的とする遺伝子治療の効果をさらに向上させるため、低強度近赤外光照射による遺伝子発現プロセスの活性化の検討を進めている。低照射強度1mW/cm^<2>~5W/cm^<2>の近赤外光(波長600~1000nm)を生体に照射すると、ミトコンドリアの膜タンパクであるシトクロムcオキシダーゼが光を吸収し、一時的な一酸化窒素の放出、ATP産生の増大を経て細胞活性化効果が得られることが知られている。近年、近赤外光照射後には、内因性DNA、RNAの合成が促進されることも報告されており、遺伝子発現プロセスに近赤外光照射が影響を与える可能性が考えられる。今後この技術を併用することで、本研究課題であるレーザー誘起応力波による難治性神経疾患の遺伝子治療技術を発展させていく予定である。
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