研究概要 |
最近脳梗塞における炎症においてもT細胞が促進的な役割を果たすことが明らかにされつつある。我々は脳虚血モデルにおいて脳虚血早期にマクロファージが産生するIL-23が、脳虚血遅延期に浸潤するT細胞のIL-17産生を誘導していることを報告した(Nature Med.2009,15,946-950)。しかしIL-10やTGFβなどの抑制性サイトカインや抑制性細胞の寄与は十分解明されていない。TGFβは生体内で恒常的に産生されており、活性化マクロファージに対しては、炎症性サイトカイン及びNOの産生抑制作用を持つ。TGFβ下流の重要なシグナル伝達分子としてSmad2/3が知られており、本年度は、このSmad2/3のマクロファージにおける機能解析を通じて、マクロファージ抑制機構を分子レベルで解明することを目標とした。研究ではマクロファージ特異的Smad2欠損マウスおよびSmad3、Smad2/3両欠損マクロファージを用いてiNOS産生を解析した。その結果、Smad2欠損マウスでは腹腔マクロファージおよび腫瘍集積マクロファージにおいてiNOSの発現が上昇しており、Smad2のiNOS発現抑制作用が生理的に示された。その分子機構としてSmad2とSmad3が機能的に重複してiNOS発現を抑制すること、さらにSmad2/3はNF-kBのほかIRF3-インターフェロンβ(IFN-β)-STAT1経路を抑制するなど、複数の機構でiNOS mRNAの転写を抑制することを見いだした。腫瘍浸潤マクロファージの分化誘導や活性制御にも、Smad2/3が深く関与している可能性が腫瘍移植モデルを用いた解析からも示されており、虚血、感染のみならず、多くの疾患において、TGFβ、Smad2/3を介した制御が新たな治療ターゲットになりうることが本研究より示された。
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