研究概要 |
分子サイズで構成され,その場,その時において,ナノスケールの現象の観測や制御を可能にするナノマシンの実現はナノサイエンス・エンジニアリングにおいて重要である.本研究は,外界からの光信号に従い動作する光制御型DNAナノマシンの実現をめざしている.光制御型DNAナノマシンは,センシング,コンピューティング,アクチュエーティング機能から構成される.今年度は,コンピューティングの観点から,新しいDNA論理回路の実装方法としてDNA scaffold logicの提案とそのデモンストレーションを行った.コンピューティング機能の実現により高度な処理を可能にするナノマシンが期待できる.ナノサイズの情報を処理する手法として,DNA論理回路が提案されている[G.Seeling,Nature,314,1585(2006)他].これは,DNAの分子認識と分子拡散に基づくシグナル伝達により,分子情報の論理演算を実現している.しかし,演算に長い反応時間を要する,空間的な制御が困難であるなどの課題がある.提案するDNA scaffold logicは,蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)をシグナル伝達として利用し演算を実行する.FRETはある蛍光分子から近接する他分子に励起エネルギーが移動する現象である.FRETの利用により,従来の分子拡散をベースとしたシグナル伝達を,単一の分子複合体内での高速なシグナル伝達に置き換えられる.この結果,DNA反応のみによる演算と比較して大幅な高速化や,シグナル局在化による分子環境の制御性の向上が期待できる.これは,ナノマシンの応用範囲の拡大につながる.実験では,分子の存在条件に応じて論理判定を行い,出力を蛍光信号として返すDNA論理回路の実装に成功した.AND,OR,NOT演算を含む回路だけではなく,多段階FRETによる演算の拡張可能性を示した.
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今後の研究の推進方策 |
今後,量子ドットなどナノ粒子の利用により,エネルギー移動の制御を導入することにより,光制御による演算の切り替え等へ拡張する.また,光励起エネルギーの利用によるアクチュエータ機能を実現することにより,分子環境の制御への展開をはかる.
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