水素の分解・発生に用いられる触媒や電極である白金は高価であり、石油と同様に枯渇資源であるため、白金に替わる新規触媒が求められている。自然界では、水素活性化酵素ニッケル・鉄ヒドロゲナーゼが、白金と同様の働きを有している。本研究の目的は、「天然酵素を範とした新規水溶性ニッケル・鉄錯体を合成し、水中・常温・常圧で水素をヘテロリティックに活性化し、電子を取り出す」ことである。 今年度、数種類の新規ニッケル・鉄錯体の合成および構造解析に成功した。さらに、これらの錯体の水素、酸素、一酸化炭素、水などに対する反応性を評価した。これまで報告されているニッケル・鉄錯体は全て、水に対して不安定であるが、今回合成したニッケル・鉄錯体は、水に対して安定である。本研究成果は、生体を範とした白金に替わる新規触媒の開発に有用な指針を与える、非常に意義深い成果である。 また近年、生体触媒(酵素)と人工触媒を融合させることで新たな機能を発現させようとする研究が盛んに行われている。そこでヒドロゲナーゼ(生体触媒)と人工触媒を混ぜ合わせたところ、pHが2から4付近では、人工触媒が機能し、pHが4から11付近では生体触媒が機能した。本研究成果は、pHを変化させることで、応答する触媒を変化させることに成功しただけでなく、今後、生体触媒と人工触媒を用いた物質変換反応に応用展開できる可能性を秘めている点で非常に重要である。
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