研究課題/領域番号 |
10J05170
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 和之 北海道大学, 大学院・獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ワルファリン / VKOR / 野生ラット / 薬剤耐性 / 系統地理的解析 |
研究概要 |
2011年度も継続的にサンプリングを行い、250頭を超える野生ネズミの死体サンプルの獲得に成功した。この一部において、尾よりゲノムDNAの抽出を行い、VKORC1遺伝子のシークエンス解析を行ったところ、VKORC1に変異を持つ個体は複数確認されたが、ヨーロッパにおける抵抗性個体の持つ139番アミノ酸に変異を持つ個体は確認されなかった。またその変異パターンは全て本研究において過去に確認されたもので、新規の変異パターンは確認されなかった。しかし今年度、別地点由来の個体から既存の抵抗性個体と同じ変異パターンを持つものが確認され、殺鼠剤抵抗性個体の分布領域の拡大が考えられた。 そこで、VKORC1の解析が行われている個体群を用いて日本における野生ネズミの系統地理的解析を行い、これとVKORC1の変異パターンとの関連性について検討した。 尾より抽出したゲノムDNAから、マイクロサテライト領域7か所の遺伝領域のフラグメント解析を行った。この情報をもとにNJ法を用いて系統樹を作成したところ、ドブネズミ(R.norvegicus)はクマネズミ(R.rattus)と分かれたクレードを形成し、ほとんどのドブネズミがクレード3に属した。また、41番アミノ酸に変異をもつ大阪由来抵抗性個体型と新潟由来抵抗性個体型はどちらもクレード2に属していた。しかし、単一のVKORC1の変異パターンによる独立したクレード形成は確認されなかったため、野生ネズミのワルファリンに対する抵抗性は、ある地域で抵抗性となるVKORC1の変異を獲得した個体群が、その生息域を拡大させてその分布を広げたのではなく、それぞれ独自にVKORC1の変異を獲得した可能性が示唆された。しかし、一部に予想に反した結果も散見されたため、今後、他の遺伝情報を用いることも視野に入れて改めて結果の妥当性を検討することが必要であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野生ネズミのサンプリングについて、コンスタントに捕獲及び採材ができていること、またVKORC1の解析により、その遺伝子の変異パターンの新規のものは確認されなかったが、ネズミの行動範囲からは想像できない地点での抵抗性ネズミの分布拡大が確認されたことより、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後も継続的に野生ネズミのサンプリングを行い、ワルファリン抵抗性ネズミの分布領域やそのVKORC1の変異パターンについて解析する。また分布領域の拡大について検討するために遺伝情報をもとに野生ネズミの系統地理的解析を行い、VKORC1の変異パターンとの関連性について検討する。系統地理的解析を行う際に用いる遺伝情報についてはよ妥当性の高い結果が得られるよう、現在用いているマイクロサテライト領域7ヶ所だけでなく他の遺伝領域を用いることも検討することが必要と考える。
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