申請者は強力な抗酸化作用を有するカロテノイドであるアスタキサンチンがヒトおよびラットの肝癌由来培養細胞においてシトクロムP450 (CYP) 1A1のmRNAを誘導することを明らかにした。CYP1A1の転写調節因子であるAhR (Ary1 hydrocarbon receptor)の典型的リガンドに比べて、CYP1A1mRNA発現量の増大を早く引き起こすがその誘導は短く弱いものであることがわかった。Green Fluorescent Protein (GFP)-AhRを発現させたCOS-7細胞において、アスタキサンチンによる刺激の10分後からAhRの核内移行が観察された。さらに、レポーターアッセイによりCYP1A1の上流1.2kbのプロモーター領域の転写活性がアスタキサンチン刺激によって増大すること、その領域内に複数存在するXRE (xenobiotic responsive element)コア配列が標的であることをゲルシフトアッセイ法により明らかにした。これらの研究結果は従来のリガンドとまったく異なる化学構造・物性を有するアスタキサンチンがAhRの核内移行を引き起こし、XREを介して下流のCYP1A1の転写を促進することを示すものである。AhRの生理的リガンドはいまだ明らかにされておらず、その生体内での働きにも不明な点が多い。食事を介して日常的に摂取するカロテノイドがもたらすAhR介在細胞内シグナルカスケードの詳細な変化を初めて示したことが本研究の特に重要な成果であると考える。
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