転写調節因子アリルハイドロカーボン受容体(AHR)は、パートナータンパク質であるAHR nuclear translocator (ARNT)と2量体を形成し、異物代謝酵素であるシトクロムP450(CYP)1A1などの転写調節を行う。私はこれまでに、オールトランスレチノイン酸がAHR/ARNTの転写調節を抑制することを明らかにしてきた。さらに、今年度はAHR自身の転写調節を行う因子としてRetinoic acid receptor-related orphan receptor α(RORα)を初めて見出した。 過去の報告から、AHRの発現量は発育段階や組織ごとに異なることや概日リズムを示すことが知られてきた。しかしながらAHR自身の転写調節機構についての研究は少なく、詳細は明らかになっていなかった。私は、ヒトAHRの転写開始点から約500bp上流にROR反応領域(RORE)が存在することを見出した。さらにsiRNAによりRORαをノックダウンすることでAHRのmRNA発現量が3。6倍に増加した。またAHR上流の配列を用いたレポーターアッセイを行ったところ、ROREの欠損または変異によってレポーター活性が増大した。これらのことから、RORαはROREを介してAHRの転写を抑制する因子であることが示唆された。 RORαは、AHRの示すさまざまな発現パターンを制御する因子の候補となりうると考えられる。本研究は、いまだ不明なAHRの生理的作用についてさらなる理解を深めるのに大きく貢献すると考える。
|