コランダム型構造をもつ酸化物半導体による新機能の創出を目指し、酸化ガリウム-酸化クロム-酸化鉄という混晶系に着目して、サファイア基板上への高品質結晶の育成、結晶評価、物性評価を行った。ミストCVD法を用いることで、熱的には斜方晶系の結晶が安定とされていた酸化ガリウムが、コランダム型の結晶構造を取ることを見出したことが研究の大きな動機となっている。また、ミストCVD法は、安全な原料を用い省エネルギーな成長技術であるので、デバイスの実用フェーズにおけるコスト・エネルギーメリットが大きいことも特徴である。酸化ガリウム/サファイア構造の透過電子顕微鏡観察では、サファイア基板との界面で長周期的な格子整合が達成されており、そのため界面で欠陥が閉じ込められて結晶層にはほとんど欠陥を含まないことが判明した。また酸化ガリウム-酸化鉄混晶を作製し、全混晶組成域においてコランダム型構造をとることを確認したとともに、X線ロッキングカーブ半値幅が100arcsec以下という優れた結晶性を実現した。透過電子顕微鏡観察によって酸化ガリウムと同様の格子緩和過程が見られ、混晶系に共通した物理現象により高品質な結晶が得られると言える。この混晶は110Kにおける磁化測定でヒステリシスを示し、従来の希薄磁性半導体とは異なる混晶半導体と言う概念でスピントロニクスに寄与しうると期待される成果が得られた。酸化ガリウム-酸化クロム混晶の成長も行い、半導体特性と磁気特性を融合した機能の探索を今後進めてゆく見通しが得られた。
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