研究課題/領域番号 |
10J05257
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金子 健太郎 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 強磁性半導体 / スピントロニクス / 酸化物 / 結晶成長 / TEM / MCD / コランダム型構造 / 希薄磁性半導体 |
研究概要 |
申請者は本助成により格子整合「混晶磁性半導体」という概念をもとにした室温動作スピントランジスタの作製(「希薄磁性半導体」の欠点を克服する)を目的とした新しい強磁性体であるα-(GaFe)203を作製し、その物性についての解明を試みている。昨年度まではα-(GaFe)203の強磁性発現機構の解明や室温強磁性を示すα-(GaFe)203をの作製を目指し、その足がかりとなる成果を得ていたが、今年度はさらなる大きな成果が得られた。昨年度までα-(GaFe)203の強磁性発現温度は110Kで止まっていたが、今年度は300Kを超えるサンプルの作製に成功し、ついに室温強磁性を示すα-(GaFe)203の作製に世界で初めて成功した。この結果により室温動作スピントランジスタ実現の可能性が一気に高まった。さらに、その強磁性発現機構についても本学化学研究所の金光義彦教授、田口誠二氏に御協力頂き磁気円二色性(MCD)の測定を行った結果、α-(GaFe)203薄膜中のスピン-キャリア相互作用は弱く、別の機構(超交換相互作用等)である可能性が高い事が判明した。そして、高分解能透過電子顕微鏡(HR-TEM)によりα-(GaFe)203結晶格子の極所観察を行ったところ、結晶格子は非常に綺麗に並んでおり、相分離や異常成長相は確認されなかった。また、α-(GaFe)203/α-Al203界面の回折スポット観察によりα-Al203(サファイア)基板と同じコランダム型構造を有している事が分かり、X線回折測定結果と整合性良く合致するものであった。さらにTEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)により薄膜内の組成分布均一性を測定したところ、化学組成比は膜内において均一であり、組成が異なる化合物による偏析は確認されなかった。以上の結果からα-(GaFe)203の強磁性は析出物や偏析によるものではなく、物質固有のものである事が判明した。この事はα-(GaFe)203が本当の強磁性体であるという重要な結果を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
9で示したように室温強磁性を示すα-(GaFe)203薄膜の作製に成功した事で、室温動作を想定したスピントランジスタの作製が可能となる。これまでの報告ではキュリー点が室温に達している磁性半導体が少なく、α-(GaFe)203が有力な候補の一つとなる。また、これまでの強磁性半導体研究において磁性元素の化合物析出や偏析が強磁性発現の原因だと指摘されていた。しかし、今年度の研究でα-(GaFe)203ではそれらの可能性が無い事を示した事で、真の磁性体である事を示す事が出来た。
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今後の研究の推進方策 |
MCD測定結果から、α-(GaFe)203薄膜中のFe203のd電子とGa203のキャリアを担うsp電子の相互作用が小さい事が判明した。これはGa203中の電子密度が低い事によるものであり、今後の重要課題としてα-(GaFe)203薄膜中のキャリア電子密度を向上させ、スピン-キャリア間の相互作用を増大させることである。そしてスピントランジスタのチャネル層となるα-Ga203/α-(AlGa)203界面を作製し、その構造評価、電気特性評価を進め、スピントランジスタの作製を目指す。
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