研究概要 |
酸がセメント硬化体に作用すると,セメント硬化体と酸の間で化学反応が生じ,セメント硬化体は変質することが知られている。そして,この変質機構はセメント硬化体に作用する酸の種類によって大きく異なる。しかしながら,酸の作用によるセメント硬化体の変質に関する劣化予測式に着目すると,酸の種類は考慮されておらず酸の濃度のみで整理されているのが現状である。以上の背景を踏まえて,本年度はセメント硬化体を侵食する様々な酸に着目し,塩酸,硝酸,硫酸およびそれらの混合酸をセメント硬化体に作用させ,その劣化機構の理論的整理を試みた。その結果,まず塩酸硝酸硫酸が単独でセメント硬化体に作用したときのセメント硬化体の変質機構を化学反応に伴い生成される各反応生成物の性質を用いて理論的に整理した。そしてその理論的考察に基づき,混合酸がセメント硬化体に作用したときのセメント硬化体の質量減少率の進行程度を混合酸の混合比率によって理論的に整理できることを示した。詳細は以下のとおりである。まず,混合酸に含まれる各々の酸のモル分率によってセメント硬化体と混合酸に含まれる酸の反応速度が異なる速度論的支配による選択性を整理した。そして,Gibbsの自由エネルギー変化量によって算出できる反応の優位性に着目した。この2つの性質に基づき検討することで,セメント硬化体に作用する混合酸のモル分率が異なることで,生成される反応生成物の生成比率が異なり,その結果セメント硬化体の質量減少率が異なることを明らかにした。本年度著者らの行った研究によって,現在までの劣化予測式に酸の種類の影響を加味することが可能になり,現在の劣化予測の精度を向上させることが可能であると考えられる。
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