研究概要 |
昨年度はpH=0.3という高濃度の混合酸の作用に伴うセメント硬化体の劣化メカニズムの整理を実施したが,今年度は様々な濃度および種類の酸をセメント硬化体に作用させ,その劣化メカニズムを整理した。劣化メカニズムの整理を行うにあたり,今年度はXRD/リートベルト法という新たな定量技術を導入し,セメント水和物組成の定量を試みた。その結果,現在まで硫酸の作用に伴うセメント硬化体の劣化は濃度に依存せず,ジプサムの生成によるものであると考えられていたが,pH=2.0程度の硫酸がセメント硬化体に作用した場合には,ジプサムは生成されず,エトリンガイトの生成に伴い劣化が進行することを示した。そして,pH=0.5の硫酸が作用した場合には,ジプサムの生成に伴う膨張が生じることで劣化表面が剥落する劣化が生じると考えられていたが,本研究よりジプサムの生成領域のさらに奥側にてエトリンガイトの生成が生じ,このエトリンガイトの生成に伴う膨張にて劣化表面の剥落が生じている可能性があることを示した,また,pH=2.0の塩酸がセメント硬化体に作用した場合には,塩化物イオンの浸透に伴うフリーデル氏塩およびクーゼル氏塩の生成が行われることを確認した。そしてこういったセメント水和物の変質は現在まで健全であると考えられてきたアルカリ雰囲気中でも生じることを示した。 また,これらの実験と並行し,熱力学的平衡理論に基づく相平衡計算にて物質移動と変質を連成した計算プログラムを作成し,実験と同条件での数値計算も実行した。その結果,実験で確認した劣化メカニズムは熱力学的平衡理論にて再現が可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は熱力学的相平衡理論と拡散則を連成させた数値解析プログラムにてセメント水和物の変質と腐食性物質の移動を連成した解析を行うことを可能にした.そして,その妥当性を基礎実験にて確認し,本研究で作成した数値解析モデルがある程度の精度を確保していることを示した。これらの点から,現段階では本研究の最終目的を達成するという点において,研究が順調に進展していると言える。
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