近年、エネルギー需要や環境問題の観点から、有機半導体を用いた太陽電池や電界効果トランジスタなどの研究が盛んである。申請者はこのような背景を踏まえ、2006年に発表された縮環オリゴチオフェンであるOctathio[8]circuleneをはじめとした、強構造有機薄膜の物性開拓とエレクトロニクスへの展開を行っている。Octathio[8]circulcne薄膜はイオン液体中で安定に酸化されることが申請者によって既に確かめられており、イオン液体を絶縁層に用いた電気二重層トランジスタを作製したところ、低い閾値電圧と高い移動度を達成した。イオン液体依存性を測定したところ、閾値電圧と酸化還元電位に直線的な関係を有することが確かめられた。さらに、トップ及びボトムゲートの絶縁層にイオン液体と酸化シリコンを用いたDual-gateトランジスタを作製したところ、高いon/off比、小さなサブスレッショルド係数、及び低い閾値電圧を達成した。また、閾値電圧を自在に変化させることに成功した。申請者は、チアジル骨格を有するポルフィラジン類縁体tetrakis(thiadiazole)porphyrazine(H2TTDPz)の物性探索も行っている。H2TTDPz薄膜はn型半導体として動作し、高い移動度を示した。さらに、p型半導体であるメタルフリーフタロシアニンと組み合わせてイオン液体を絶縁層に用いた相補型のインバーターを作製したところ、低電圧で動作した。周波数依存性を測定したところ、20Hz以下で動作することが確かめられた。これらの研究によって、有機半導体とイオン液体の組み合わせが興味深い物性を示すことが明らかとなった。
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