研究課題/領域番号 |
10J05279
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤本 卓也 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 有機半導体 / 有機トランジスタ / オリゴチオフェン / サルフラワー / 縮環化合物 / イオン液体 / 電気化学 / 電気二重層 |
研究概要 |
有機太陽電池や有機発光素子、有機トランジスタなどの有機物の柔軟性や修飾容易性を活かした『有機エレクトロニクス研究』が近年非常に盛んに行われており、様々な分子構造や動作原理が提案されている。しかし、その大半は既存の分子骨格をもとにしたもので構成されており、全くの新しい分子骨格を有するものは少ない。新しい構造は特異な物性を有することが多く、これまでのものと異なる新たなエレクトロニクス研究の道が拓けると期待される。申請者は2006年に発表されたサルフラワーと呼ばれるOctathio[8]circulene分子の研究を行っている。この分子はヘテロ環が大環状に縮環した構造を有しており、新規物性が期待される。申請者のこれまでの研究によって、サルフラワー薄膜がイオン液体中で安定に酸化され、さらにイオン液体を絶縁層に用いた電気二重層トランジスタでは可逆的に安定動作することが確かめられている。本年度は、絶縁層に6種のイオン液体を用いてトランジスタ特性のイオン液体依存性を検討した。これらのイオン液体の静電容量を測定したところイオン液体によって異なる静電容量を示し、イオン液体を適切に選択することでキャリア注入能を自在に変化させられることが確かめられた。トランジスタの移動度は静電容量が大きくなるにつれ小さくなる傾向が見られた。また、高電圧を印加して全てのイオン液体でサルフラワー薄膜を可逆的に酸化することに成功した。このとき、1サイクルごとに5nmずつ酸化されており、その様子をin-situ UV/Vis法により追跡した。また、トランジスタの閾値電圧と薄膜の酸化電圧に直線的な関係が得られ、その差は約0.5V程度となった。これらの値にイオン液体のアニオン依存性が見られ、極性が高いものが低いものに比べ低電圧駆動し、さらにその中でイオン半径の小さいものがより低電圧で動作することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
サルフラワー分子を用いて、イオン液体を絶縁層に用いた電気化学を詳細に観察することに成功した。特に電気二重層の形成と電気化学についての関係は明らかになっていないことが多く、有機エレクトロニクスとしてのみならず、電気化学や固体物性などの基礎学問として重要なことを解明することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
サルフラワー分子の基礎物性解析は依然として重要な課題であり、化学ドーピングや伝導度の温度依存性などの固体物性の解明を行う。また、イオン液体を用いた電気二重層トランジスタの研究をさらに発展させ、より高次のアプリケーションへと繋げる。これまでの研究でポルフィラジン類縁体tetrakis(thiadiazole)porphyrazine(TTDPz)も強構造薄膜を形成し、イオン液体中で安定にトランジスタ動作することが分かっている。この分子はn型動作を示し高移動度を有するため、サルフラワーと同様に電気二重層トランジスタの構成素子として魅力的である。今後はサルフラワーの基礎物性解析とエレクトロニクスへの応用と並行して、この分子の物性解明とデバイス作製を行う。
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