エレクトロニクスの発展により、IT技術などの飛躍的な進歩がもたらされた。しかし、シリコンをはじめとした従来の半導体技術では、その機能性や処理能力に限界があるため、今後の発展には新たな材料や素子構造が望まれている。有機半導体は、柔軟性や低コスト性、修飾容易性に起因する機能性の付加などが期待できるため、新たなエレクトロニクス材料として注目されている。申請者はこのような背景を踏まえ、新たな有機半導体の合成、物性測定およびエレクトロニクスへの展開を行っている。申請者のこれまでの研究により、イオン液体を絶縁体に、サルフラワーと呼ばれるOctathio[8]circuleneを半導体に用いた電気二重層トランジスタにおいて、高い移動度と低電圧駆動を示すことが確認された。本年度の研究では、小さいHOMO-LUMOバンドギャップを有し、強構造性薄膜の形成が期待される鉛フタロシアニン、およびチタニルフタロシアニンを半導体に用いて電気二重層トランジスタを作製し、その特性を評価した。絶縁体には10種のイオン液体を用い、それぞれ比較した。移動度は全てのトランジスタで~10^<-4>cm^2V^<-1>s^<-1>であったが、閾値電圧は±2.0V以下と低電圧での両極性駆動が確認できた。このとき、閾値電圧にイオン液体依存性が見られたが、p型とn型の閾値電圧の差はほぼ一定となった。イオン液体によって閾値電圧は変わるが、正孔及び電子注入に要する電圧差は変化していないことが示唆される。より詳細にイオン液体と閾値電圧の関係を調べるため、参照電極を用いてイオン液体の自然電位を測定したところ、電気二重層トランジスタの閾値電圧との間に直線的な関係が確かめられた。すなわち、イオン液体の自然電位がトランジスタの閾値電圧に影響しており、適切なイオン液体を選択することで、その動作電圧を制御できることが分かった。
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