ルテニウム錯体RuH_2(CO)(PPh_3)_3 (1)によるo-アシルアニリン類の還元的脱アミノ化反応について検討を行った。ルテニウム触媒1存在下、ジメチルアミノ基をもつo-アシルアニリン類をトルエン溶媒中120℃で加熱したところ、還元的脱アミノ化が進行し、対応する芳香族ケトンが得られた。この反応は、反応温度により収率が大きく変化し、p-キシレン溶媒を用いて140℃で反応を行うと90%GC収率で還元的脱アミノ化が進行した。また、還元的脱アミノ化反応は、β水素をもつo-アシルアニリン類に適用可能であることが分かった。この反応の反応機構に関する知見を得るため、メチル基の全ての水素を重水素で標識したo-ジメチルアミノビバロフェノン-d_6を用いて同様の反応を行った。その結果、アシル基のオルト位にほぼ定量的に重水素が取り込まれた。これは、この反応が炭素-窒素結合のルテニウムへの酸化的付加、ルテニウムアミド種のβ水素脱離によるルテニウムヒドリド種の生成、炭素-水素結合生成を伴う還元的脱離を経て進行していることを示唆する結果である。 オレフィン存在下で同様の反応を行うと、o-アシルアニリン類の還元的脱アミノ化・アルキル化反応が進行した。還元的脱アミノ化反応同様、この反応も反応温度が重要であることが分かった。この反応は、β水素をもつo-アシルアニリン類に適用可能であり、アミノ基上の置換基の水素を水素源として反応が進行していることが示唆された。また、重水素標識実験では生成物に重水素が取り込まれており、還元的脱アミノ化同様、β水素脱離を経て進行していると考えている。 これらの反応は、これまであまり有機合成に利用されてこなかったアニリン中の炭素-窒素結合を、触媒的に官能基化できるものであり、有機合成化学上有用な反応になり得ると考えている。
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