本研究プロジェクトの目的は、チンパンジーにおける行動特性を客観的に評価する方法の確立と、その行動傾向の個体差と、主にストレスに関連した生理指標・遺伝的基盤との相関を検討することである。本年度は、ストレスの個体差を検討するために必須である、チンパンジーにおける毛髪サンプルからのコルチゾル分析方法の確立を主眼として研究をおこなった。毛髪からのコルチゾル分析は、数ヶ月にまたがる長期的なストレスの測定に有効でありながら、チンパンジーにおいてはおこなわれてこなかった。そのため、ストレスの個体差を検討する研究の前に、測定方法の確立が急務であった。そのため、今回毛髪中コルチゾル分析の妥当性を評価するために、まずは糞中コルチゾル濃度の分析方法を確立したうえで、毛髪中・糞中のホルモン変動の相関を調べることを目標とした。まず、糞中コルチゾル濃度の分析方法を確立した。糞中からコルチゾルを、ジエチルエーテル・メタノールを使用して抽出し、ELIZA法を用いて、コルチゾル濃度を分析した。その妥当性を、回収率の検討・平行性の検定などを通しておこなった。結果、ジエチルエーテルでの抽出が適していることがわかった。さらに、エタノールを用いた糞の保存における糞中コルチゾル濃度の経時変化に関する検討をおこなった。先行研究から、エタノールを用いた糞の保存は簡便ではあるが、経時変化の可能性が指摘されていたからである。次に、毛髪サンプルに関しても、平行性の検定をおこなった。結果、毛髪中コルチゾルはジエチルエーテルでの抽出が不可能で、メタノールで抽出が可能であることがわかった。今後、ここまでで確立した方法をもとに、分析サンプル数を増やし、毛髪サンプルを用いたコルチゾル分析方法の妥当性を検討し、ストレスの個体差の検討に応用していく。
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