研究課題
金星の気象における最大の謎とされているのが、スーパーローテーションである。金星自身は約240日で1回転するが、金星を取り巻く大気は自転速度よりも早く、特に金星の雲層(高度70km付近)での速度は自転速度の60倍である。この現象を生成・維持するメカニズムとしては鉛直伝搬する波動が挙げられる。今年度は、その鉛直伝搬波動でも小規模な重力波(鉛直波長2.5-15km)の研究を行った。地球気象では、重力波が成層圏や中間圏における大気循環にとても寄与することが知られている。申請者は、その中でも重力波の砕波についての研究に着目した。下層で生成された重力波は、高度と共にその振幅が指数関数的に増大し、ある高度で砕波し、それに伴う乱流拡散で振幅が一定となる、則ち飽和することが示唆されている。その時、重力波の鉛直波数スペクトルを求めると、飽和理論スペクトルに良く従うことが知られている。申請者は、Venus Expressの電波掩蔽データから得られた温度分布から重力波を検出し、それの鉛直波数スペクトルを計算した。そして地球気象で構築された飽和重力波の鉛直波数スペクトルと比較し、金星大気の重力波が飽和するかどうか調べた。その結果、高緯度で重力波が飽和していることを見出した。申請者は、金星大気だけでなく火星大気の重力波についても着目し、同様の研究を行った。その結果、火星大気でも赤道域で飽和していること見出した(現在、論文を改訂中)。以上のことを踏まえると、地球・金星・火星と言った地球型惑星全てにおいて、地球気象で構築された飽和理論が通用することを、世界で初めて示唆した。
2: おおむね順調に進展している
昨年7月でのESA電波科学チームとの会合を経て、そのチームが保持するデータの解析を一任された。そして、そのデータの解析から研究成果を得ることができ、それについての論文を執筆中である。今後はさらにデータの解析を進め、重力波以外の波動(熱潮汐波やロスビー波など)の検出に努めたい。また金星以外にも火星大気における重力波の鉛直波数スペクトルに関する研究成果を挙げ、それに関する論文を現在改訂中である。
現在のデータ解析の問題点として、中性大気の密度のゆらぎにより異なる高度からやってきた電波が同時に受信されてしまうというマルチパス問題が挙げられる。従来の幾何光学的に屈折角を求める方法では、その問題を解決することが出来ず、金星雲層(高度60km)より下では正しい鉛直温度分布を得ることが出来ないと思われる。そこで地球のGPS掩蔽で使われるような方法<Full Spectmm Iaversion,Back Propagationなど)を金星大気に世界で初めて適用する計画を立てている。GPS掩蔽については京都大学の津田敏隆教授らが精通しており、彼らと綿密に打ち合わせを行うことで、この問題を解決したいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (8件) 備考 (1件)
Earth Planets Space
巻: 63 ページ: 493-501
巻: 63 ページ: 1009-1018
http://www.stp.isas.jaxa.jp/nakamura/