奇形腫は、その腫瘍内に一見正常組織と思えるような2~3胚葉由来の様々な組織を内在させており、その特異性から学術的な研究対象として古くから注目されている腫瘍である。この腫瘍の起源とされている細胞が始原生殖細胞(Primordial Germ Cells ; PGC)である。PGCは胎生期の間に生殖細胞へと分化することで全能性を失うが、PGCが分化せずに残存すると奇形腫が発生するとされている。しかし、我々は分化した生殖細胞を培養した精子幹細胞 (Germline Stem Cells ; GSC)が非人為的に全能性を回復することが稀にあることを見出した。すなわち、奇形腫はPGCの残存以外にも、分化したはずの生殖細胞が全能性を回復してしまうことで起きる可能性があることが示唆された。 本研究の目的は、生殖細胞の非人為的な全能性の回復についての分子メカニズム、またPGCから生殖細胞への分化についての分子メカニズム、両細胞における増殖に対しての分子メカニズムについて理解を深めることにより、生殖細胞の性質であると考えられる「全能性回復のしやすさ」についての分子的理解を深めることである。 また、本研究の意義は生殖細胞以外では非人為的に全能性を回復する例は見当たらず、全能性を再獲得させるためには遺伝子導入などによりips細胞を作製しなければならない。より人為的な誘導を避けながら全能性を獲得した細胞を得るための理論を構築できることにある。 その一環として、放射線で誘導されるGSCアポトーシスの分子機構についての研究を深めた。すなわち、p53-Trp53inp1-DR5 pathwayが非常に重要な役割を担っていることが発見された。これにより、特にTrp53inp1が酸化ストレスに対する応答に関連している分子であることから、ストレスとGSCとの関係について更に理解を深める必要があることが示唆された。
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