本研究は「ひきこもり」の当事者やその家族にインタビューを行ない、そこでの語りをライフストーリー研究の見地から読み解くことを通じて、不安定化・流動化が増すばかりの現代日本社会における働き方や生き方を問い直そうとするものである。本年度は(1)支援団体に当事者として参加している人へのインタビュー、(2)支援の動向調査、(3)方法論の検討に取り組んだ。(1)当事者へのインタビューでは、引きこもっている状態を脱してから直面することになった困難を中心に聞かせてもらった。経済的にも精神的にも安定して暮らせるようになるため試行錯誤を重ねながらも、その努力は周囲からなかなか理解されず、そのことが新たな苦しみになっていることがうかがえた。この成果の一部は既に論文化し、来年度刊行される論文集に掲載の予定である。(2)地方自治体の担当職員への聞き取り、全国規模での支援者交流会への参加を通じて、2010年4月の「子ども・若者育成支援推進法」施行以降の支援の動向を調査した。就労支援が重視される傾向は2000年代半ばから変わっていないが、単に社会適応を目指させるのではない動きが生まれていることが分かった。来年度以降は、自分たちで働く場を作っていく、あるいは働き方を変えていくことを試みている団体を調査する。(3)これまでに行なってきた研究を調査方法論の観点から振り返り、インタビュー調査には実態把握だけに留まらず、現実を認識するための新たな視角の創造という意義があることを明らかにした。この成果は日本社会学会のテーマ部会「ライフストーリー研究の射程と地平」で報告し、来年度に向けて論文投稿の準備を進めている。
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