本研究は「ひきこもり」の当事者やその家族にインタビューを行ない、そこでの語りをライフストーリー研究の見地から読み解くことを通じて、不安定化・流動化が増すばかりの現代日本社会における働き方や生き方を問い直そうとするものである。24年度は東京・神奈川でのフィールドワークを継続しながら以下のことを行った。 第一に、「ひきこもり」問題の新たな展開を踏まえて「『ひきこもり』の当事者は何から排除されているのか」と題する論文を発表し、当事者は雇用や社会保障のみならず日々の相互行為においても排除されていることを明らかにした(稲垣恭子編著『教育における包摂と排除-もうひとつの若者論』明石書店に収録)。以上と並行して、不登校・「ひきこもり」を経験したある一家へのインタビューの論文化、および当事者・経験者への追跡インタビューの書籍化に向けて作業を進めている。 第二に、23年度から引き続き調査方法論に取り組み、24年度は調査倫理の問題を検討した。日本社会学会倫理委員会が年次大会で企画したテーマセッションにおいて「調査は迷惑行為か-調査者の倫理と<ひと>の倫理」と題する報告を行ない、社会が大きく変動して学問の社会的位置づけが変わりつつあるなか、調査者-被調査者関係において新たに浮上してきている問題を指摘した。本報告の内容は『社会と調査』で論文化する予定である。 第三に、親の会や家族向けの研修会で講演したり、当事者向けイベントの企画に加わったりするなど、これまでの研究成果を社会還元できるように努めた。
|