研究課題/領域番号 |
10J05423
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
谷本 周穂 慶應義塾大学, 大学院・理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 光分解 / フラーレン / ポルフィリン / HIV-1プロテアーゼ / HIV / 抗ウィルス薬 |
研究概要 |
申請者は、AIDS関連タンパクであるHIV-1プロテアーゼを標的選択的に光分解し、その機能を制御することを目的として合成した機能性分子の抗HIV活性を、培養細胞を用いた実験系において評価した。まず、フラーレンー糖ハイブリッド分子を用い、その抗HIV活性を、白血病細胞Molt-4を用いた実験により評価した。Molt-4にHIV(NL4-3株)を感染させ、フラーレン-糖ハイブリッド分子を投与した。その後、光照射を行った場合及び光照射を行わなかった場合についてHIVの増殖率をフローサイトメトリー及びELISA法を用いて定量化した。この結果、申請者が合成したフラーレン-糖ハイブリッド分子は光非照射時にはHIV増殖抑制活性を示さず、光照射を行った時にのみ強力なHIV増殖抑制活性を示すことを明らかにした。このことは、フラーレン-糖ハイブリッド分子によるHIV-1プロテアーゼの光分解と酵素機能阻害が細胞系でも有効に機能していることを示唆している。さらに、健常者より提供されたヒト末梢血単核球細胞(PBMC)を用いて同様の実験を行い、フローサイトメトリーを用いてHIVの増殖率を定量化した。その結果、フラーレン糖ハイブリッド分子はPBMCを用いた場合においても、光照射依存的なHIV増殖抑制活性を示すことを明らかにした。培養細胞株ではなくヒトから得られた第一世代の細胞においてもコンセプト通りの抗HIV活性を示したことは、本研究の医薬応用への期待を高めるものであり、本研究は今後、分子標的光線力学療法剤の基礎的かつ重要な知見となることが期待される。一方、同様の抗HIV活性を見込んでデザイン、合成したペプチドーポルフィリンハイブリッド分子においては、試験管内ではHIV-1プロテアーゼの光分解を達成できたが、細胞内での抗HIV活性を見出すことは出来ず、分子量増大による膜透過性の問題が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フラーレン誘導体を用いた抗HIV活性試験においては、昨年度に引き続きさらに試験を続けた結果、期待以上の良好な結果を得ることが出来た。しかし、ペプチド構造を導入したポルフィリン誘導体を用いた実験においては、HIV-1プロテアーゼの試験管内での光分解は達成できたが、細胞を用いた抗HIV活性試験では望む活性が得られなかった。上記2つの結果を総合的に判断し、研究全体としては概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
標的タンパク選択的光分解の基礎的知見を蓄えるため、光感受性分子であるポルフィリンを用いて腸管出血性大腸菌由来の毒素タンパク「ベロ毒素」の標的選択的光分解を試みる。標的であるベロ毒素はグロボトリアオシルセラミドと呼ばれる糖鎖を認識し、溶血性尿毒症症候群などを引き起こすが、現在特異的な治療法が確立されていない毒素である。申請者はポルフィリンにベロ毒素と特異的に結合する糖鎖構造グロボトリオースを導入した分子を合成し、ベロ毒素の毒性を光照射依存的に中和する光感受性分子の創製を行う予定である。
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