研究概要 |
本研究では宮城県名取川水系において底生動物の遺伝調査を実施し,水生昆虫の流域内の遺伝子流動と遺伝的多様性に与える影響の解明を行った.流域スケールの頑健な生態系を実現するためには,生物の移動分散パターンを知る必要がある.しかし,従来の観察による手法では多大な労力が必要となるうえに,例外的な移動を見落としやすい.遺伝解析による方法では上記の問題点が少ないが,遺伝情報による推定と実際の移動分散パターンを比較した例は少ない.本研究ではマイクロサテライトを用いてヒゲナガカワトビケラ(Stenopsyche marmorata)の移動分散の解析を行った。従来,ヒゲナガカワトビケラは河川方向の移動をするとされていたが,遺伝解析により河川間の移動が示唆された.また,対象種の移動距離は約14kmと推定された.観察による結果とほぼ一致し,遺伝解析による移動分散パターンの推定が有効であることが示された.続いてモンカゲロウ(Ephemera strigata)を対象に生息場構造と遺伝的多様性の関係を解析した.モンカゲロウは河川の上流から下流まで,早瀬からワンドまで広く生息する.対象種は止水性ハビタットに多く存在していた.しかし,ハビタットに固有の対立遺伝子の数は流水性ハビタットの方が多かった.また,ハビタット多様性と遺伝的多様性の間に有為な正の相関が見られた.したがって,多くのハビタットが均等に存在するほどモンカゲロウ集団の遺伝的多様性は高まることが示唆された.この結果は河川再生事業などにおいて生息場設計の際の材料となりうる.
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