本年度は、前年度に引き続きフィラメント交差点の解析、また新たに取得した衝突銀河団CIZA2242の「すざく」による解析、太陽系外惑星の表面分布推定法の開発を行った。 X線衛星すざくは、ダークバリオン探査に有利な軟X線に高感度を持つが、視野が狭い欠点がある(~20')。これまで、すざくでは銀河団周辺のダークバリオン探査が行われたが未検出であった。そこで私は分光によるSDSS銀河地図から大規模構造を同定し、2010年に観測した。私が狙ったのはX線全天探査で何も見えないが、銀河分布ではフィラメント構造の節点にあたるところで、そこに温度1400万度の銀河群を発見した。これはWHIM温度域の少し上ではあるがれっきとしたダークバリオンの一部である。そして面白い事にこの銀河群は複数の輝度ピークと高温領域を内部に持つ衝突中のハローであることがわかった。銀河同士の衝突(可視光)と銀河団の衝突現象(X線)はよく研究されているが、銀河群規模の衝突現象は初めて確認されたといっても良い。これはダークバリオンの、今後の天文学的対象としての可能性を示唆しているのだと考える。今年度は、この方法により新たに3ターゲット中すべてにハローが発見され、ダークバリオン探査法としての有効性が確かめられた。特に、背景X線放射より低いエネルギーの放射がそのうちの一つから見つかり、ハードネス比を求めると周囲より低いハードネス比のマップが得られるなど、対象としても面白い結果となった。これらみつかったX線シグナルは温度1keV程度のガスハローから輻射されていると考えられ、ミッシングバリオンの一部であると考えられる。これらの結果は現在、論文として執筆中である。 またCIZA2242の解析では、既に電波観測により検出されていたRadio Relicを境に、不連続で急激な温度変化を発見した。これはRadio Relicが衝撃波面に対応することを明確に示すものである。この結果は、現在、論文にまとめ投稿中である。 さらに本年度は前年度に出版した太陽系外惑星の表面マッピングの手法を拡張し、アルベドモデル独立な方法であるSpihOrbit Tomography(SOT)を提案した。惑星からの反射光は、我々に面した惑星表面の昼側領域(反照領域)の情報を運ぶ。惑星として地球を想定した場合、自転による反照領域の移動に伴い、大陸・海洋・雲といった表面組成の不均一性が、10%程度の光度変動を与えることが2001年に指摘された。私は、自転運動のみならず公転運動でも反照領域が変化することに着目し、年間の光度変動にトモグラフィーを応用することで、直接空間分解することなく惑星表面の二次元マップを得る新しい方法の開発に取り組んできた。前年度の結果は組成の反射率モデルが必要であり、雲がないような非現実的なモデルであったが、試行錯誤を経て、反射光を直接、惑星表面に二次元マップできるモデル独立な方法論を完成した。
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