研究課題/領域番号 |
10J05493
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤井 佑紀 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 神経系前駆細胞 / クロマチン / HMGA |
研究概要 |
本研究のこれまでの結果から、神経系前駆細胞のクロマチンの凝集状態が発生時期依存的に核全体で変化することを見出していた。そして、早期神経系前駆細胞で発現の高いクロマチン制御因子HMGAがクロマチンの凝集状態をゆるく制御することと、ニューロン分化能を促進し、アストロサイト分化能を抑制するという早期神経幹細胞の分化能に寄与していることを示す結果をin vitroの系を用いて得ていた。しかし、この現象が実際に生体内でも存在するかは明らかでなかった。そこで昨年度(平成23年度)はこれらについてin vivoの系で検討を行った。 その結果、生体内においても実際に神経系前駆細胞のクロマチンの凝集状態は発生時期依存的に核全体で変化することを見出した。さらに、マウス子宮内電気穿孔法を用いる事で、生体内においてもHMGAが神経系前駆細胞のニューロン分化能を促進し、アストロサイト分化能を抑制する働きがあることが示唆された。また、生体内においてもクロマチンの凝集状態の"ゆるさ"が神経系前駆細胞のニューロン分化能に重要であることを示唆する結果を得た。 これまで幹細胞が分化するにつれて、クロマチンの凝集状態が核全体で凝集していくという現象は、ES細胞が分化する過程においては報告されていた。しかし、このような現象が生体内でも存在するのかは全く明らかでなかった。本研究では、幹細胞が多分化能を失う過程における核全体でのクロマチンの凝集状態の変化が、生体内で起こることを初めて明らかにした。さらに、ニューロン分化能を失った発生後期の神経系前駆細胞にHMGAを過剰発現することで、ニューロン分化能を再獲得することを明らかにした。このような、神経系前駆細胞のニューロン分化能を再獲得させる働きを見出したのは非常に新しい知見であり、ニューロン分化能を失った神経幹細胞からニューロンを作り出すという、再生医療の観点からも重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度、当初の予定していた、「HMGAが神経系前駆細胞に与える影響についての詳細な検討」について、生体内での影響について検証し、生体内においてもこれまで観察してきた現象が存在する事を明らかにすることができた。さらに、これまでの一連の研究結果をまとめて、現在論文も投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から、HMGAが神経系前駆細胞のニューロン分化能を促進する働きがあることが分かった。そこで、ニューロン分化能を失った発生後期の神経幹細胞にHMGAを過剰発現して、遺伝子発現にどのような変化があるのかをマイクロアレイを用いて調べ、HMGAによるニューロン分化能促進のメカニズムの一端に迫りたいと考えている。
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