研究課題/領域番号 |
10J05529
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
梶原 将大 北海道大学, 大学院・獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | マールブルグウイルス / エボラウイルス / 表面糖タンパク質 / furin / 感染増強 / 抗体 / エスケープ変異体 / 病原性 |
研究概要 |
フィロウイルスはヒトを含む霊長類に致死的な出血熱を引き起こす。フィロウイルスの唯一の表面糖蛋白質であるGPは翻訳後、宿主の全身組織に存在するプロテアーゼであるfurinおよびその類似蛋白質により2つのサブユニットに開裂される。しかし、その生物学的な意義は未だ明らかになっていない。GPはフィロウイルスの病原性に強く関与すると考えられており、GP開裂の生物学的意義の解明はフィロウイルスの病原性発揮機構を解明する上で重要な知見を与えるものと期待される。 GP特異的抗体の中には、フィロウイルスの感染性を増強する性質をもつものが存在することが報告されている。豚水疱性口炎ウイルス(VSV)のシュードタイプシステムを用いた昨年度までの実験結果から、マールブルグウイルス(MARV)においてGPのfurinによる開裂がこの抗体依存性感染増強現象(ADE)に関与するということが示唆された。本年度の研究により、エボラウイルスにおいても非開裂性のGPを有するウイルスではADEが起きにくいことがわかった。フィロウイルスの感染におけるADEの意義については未だ議論が続いているが、GPの開裂が、抗体を有するもしくは産生しつつある宿主におけるフィロウイルスの感染成立および増殖に重要な役割を果たす可能性が考えられる。 また、MARVのGP遺伝子をコードした組換えVSVを用いて、中和抗体(M72-17およびAGP127-8)からのエスケープ変異株を樹立した。これらのウイルスが有するGPのアミノ酸配列を決定したところ、furin認識配列に変異が入っていることがわかった。ウイルスが中和抗体の圧力から逃れるメカニズムとして、そのエピトープにアミノ酸変異が入り抗体の結合能が失われることが一般的であるが、M72-17およびAGP127-8からのエスケープ変異株はfurinによるGPの開裂性を失うことでGPの構造が変わり、エピトープを抗体から隠しているものと考えられる。このような機序による中和抗体からのエスケープはこれまでに報告がなく、MARVにユニークな現象であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
furinによるGP開裂の明確な生物学的意義に関しては未だ明らかではないが、本年度の研究の結果から、furinによるGP開裂が「GP特異的抗体による感染増強現象」および「中和抗体からのエスケープ」に関与しているという知見を得ることができた。来年度はさらなる研究の進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
抗体による感染増強現象には、宿主のFc受容体を介した機序のほかに、補体成分C1qとその受容体を介した機序が存在することが知られている。これまでの研究は全て、Fc受容体を介した感染増強に注目してきたが、来年度はC1qを介した感染増強へのGP開裂の関与について解析する予定である。 当初の研究計画には記述していないが、中和抗体からのエスケープにおけるGPの開裂性の喪失についてより詳細に解析を進める。エスケープ変異体のGP遺伝子を蛋白質発現ベクターにクローニングし、変異GPの開裂性の確認、中和抗体およびその他の抗体への親和性の有無を解析する予定である。また、マールブルグウイルスの抗体による中和メカニズムはほとんど解明されていない。今後はこれら中和抗体がどのようにウイルスを中和するかを解析することで、ウイルスの増殖サイクルにおけるGPの役割について研究を進める予定である。
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