研究概要 |
私は平成22年度,底タングルの普遍量子不変量を用いた絡み目の量子不変量の研究を進めてきた.まず,申請時に投稿中であった論文「On the universal $sl_2$ invariant of ribbon bottom tangles」は4月に出版された.この論文の主定理は,リボン底タングルのUq(sl2)普遍量子不変量が,Uq(sl2)のテンソル積のある小さな部分代数に含まれるという主張である.応用として,リボン絡み目のUq(sl2)量子不変量がZ[q,q^(-1)]のある小さなイデアルに入る,特にqに関する円分多項式で通常より多く割れるということが従う.これらの結果は,与えられた底タングル,もしくは絡み目がリボンであるかの判定に用いることができる.また,リボン絡み目の量子不変量の研究は,コンコルダントと量子不変量の関係の研究に応用することができ,結び目理論の古典的で重要な予想「スライス・リボン予想」の反例構成に役立つ可能性がある.この先も結果を改良しながら応用を広げていくつもりである.次に,当初の目標であった境界底タングルに対する予想を証明し,論文「On the universal $sl_2$ invariant of boundary bottom tangles」を投稿した.この結果はリボンの場合の結果の類似になっている.ここで構築したUq(sl2)の交換子作用素の理論は様々な方向に応用の可能性をもつ.例えば,量子不変量とAlexander多項式,ザイフェルト行列,有限型不変量,grope,などの間の関係を調べるうえで有効な道具になる.これについても結果の改良を目指し,より精密な理論の構築を試みながら応用していくつもりである. また,Brunnian底タングルのUq(s12)普遍量子不変量が,リボンや境界とは別の,Uq(s12)のテンソル積のある小さな部分代数に含まれるという結果を示し,現在論文を執筆している.この結果はBrunnian底タングルの幾何学的性質を綺麗に反映していて,証明もリボンや境界の場合と比べてとてもシンプルである.ここで用いられる手法は初等的でありかつ本質的で,今後の研究の基礎になると考えている.
|