運動イメージ形成には体性感覚情報が影響することが報告されている。本研究では触れる物体の大きさが運動イメージ形成に及ぼす影響を、運動イメージ中の皮質脊髄路の興奮性を調べることで検討した。皮質脊髄路の興奮性は経頭蓋磁気刺激によって誘発される運動誘発電位の振幅とした。大きさの異なる2種類のボール(直径3cmと7cm)を用いて、小さいボールを摘むイメージを行っているときに小さいボールに触れる条件(一致条件)と大きいボールに触れる条件(不一致条件)中の運動誘発電位を第一背側骨間筋から記録した(実験1)。また、大きいボールを握るイメージを行っているときに小さいボールに触れる条件(不一致条件)と大きいボールに触れる条件(一致条件)も同様に行った(実験2)。触れる物体がイメージするものと同じ場合(一致条件)はより皮質脊髄路の興奮性が増大するが、イメージするものと異なった場合(不一致条件)は皮質脊髄路の興奮性があまり増大しないことが示された。さらに、コントロール実験として、2種類のボールにそれぞれ触れるが運動イメージを行わなかった場合の運動誘発電位を記録した結果、ただボールに触れるだけでは皮質脊髄路の興奮性は変わらないことが示唆された(実験3)。また、物体と掌との接触面積が運動イメージに及ぼす影響を検討した結果、接触面積の広さと運動誘発電位の振幅には関連が見られなかった(実験4)。これらの結果から、触れる物体の大きさが運動イメージで操作する物体と一致していることが運動イメージ中の皮質脊髄路の興奮性をより増大させることが示された。手で触れる物体の大きさが異なると皮膚機械受容器と固有受容器の活動も変化することから、イメージする動作で期待される皮膚感覚と固有感覚がその運動イメージ形成に重要であると考えられる。
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